短期集中連載「起業は巡る」。第3シーズンに登場するのは、新たな技術で日本の改革を目指す若者たち。第3回は、ソフトウェアのテストを自動化させた「オーティファイ」CEO・共同創業者の近澤良氏だ。AERA 2022年3月7日号の記事の1回目。
【写真】会社のキャラクター「Hatty(ハッティー)」が描かれたオフィスでミーティングする近澤さん
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「イジメ、ダメ! イジメ、ダメ!」「ダメ、ダメ、ダメ」
2016年の米サンフランシスコ。ヘビーメタルの大音響の中、密集した大男たちが取り憑(つ)かれたように日本語で叫ぶ。体をぶつけ合うモッシュと、他の観客の頭の上を泳ぐように移動するダイブを繰り返す。
舞台の上で観衆を煽(あお)るのは3人の日本人少女。「ヘビーメタルとアイドルの融合」をコンセプトに世界を席巻するユニット「BABYMETAL(ベビーメタル、現在は2人)」だ。
「これだよ、これ」
現地のスタートアップでエンジニアとして働いていた近澤良は、会場で鳥肌を立てていた。ベビーメタルは海外でも日本語で歌う。だが、赤と黒のコスチュームに身を包んだ少女がヘビーメタルに乗って歌い踊るパフォーマンスは海外でも熱狂的な人気を誇る。この年も英ロンドンのウェンブリーアリーナを満員にした。
■音楽よりネットでしょ
日本で成功してから海外に。戦後の日本企業はほとんどがこのパターンで成長した。だが、今はあらゆる物事が世界同時で進行するインターネットの世紀。スタートアップも「いきなり世界」を狙う。ベビーメタルの活躍は近澤に勇気を与えた。
16年9月、近澤はそのサンフランシスコでオーティファイの前身となる会社を設立した。日本、シンガポール、米国でエンジニアとして武者修行を続けた後、あえて日本に戻らず海外で起業した。世界を目指すにはそれが近道と考えたからだ。
父は経営コンサルタント。元ラジオアナウンサーの母は、カタログ誌とEC(ネットショッピング)の会社を経営していた。プログラミングができた近澤は、母の会社のウェブサイトをデザインしたり、倉庫の棚卸しをしたりして小遣いを稼いでいた。父には「それでいいのか」と言われたが、本人はミュージシャンを目指しており、大企業で働くつもりはなかった。