ソロモンはああだこうだと御託を並べながら次々に遺品を鑑定し、「プライス」をつけていく。
そこに外科医の兄ウォルター(大石継太)が16年ぶりに現れる。音信不通のままだった兄を弟がなじり、父の隠された過去が明らかになる。
兄弟の諍(いさか)いを見守り、時に言葉を添えながら物語の筋を作っていくソロモンは、文化人類学者の山口昌男的に言えば「道化」にも見えた。人間関係をかき回し、あちこちから真実への鍵を探し出してくる道化者。
「隠さず、徹底的に本音を言え。じきに大切なものが見えてくる」
老鑑定士はアーサー・ミラーそのもので、山崎が見事に演じていた。
「家具のプライス(価格)を決める部分に人間の価値(プライス)も重なってくる。モノと同じく人も消費されていく。自分の市場価格を意識せざるを得ない現在で、他人ごとではない物語だった」と山崎は言う。
タクシーに乗れば自分に合うとされる広告が、スマホには利用者それぞれにCMが自動的に表示されるようになったが、自分の価値は、AI=他人に委ねてはならない。
政府は国民総背番号制といわれるマイナンバーカードを推進しているが、そんな中、ジョージ・オーウェルが管理社会の悲劇を描いたディストピア小説が、絵空事ではなくなっている怖さを知らしめる秀作だった。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年3月11日号