経済思想家で大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の斎藤幸平氏が、気候戦争としてロシアのウクライナ侵略を読みとく。
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北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大から、ウクライナ東部の領土問題、プーチン大統領のロシア帝国復活という野望にいたるまで、ロシアによる予想外の侵攻をめぐって、様々な原因がメディアで取り沙汰されている。当然、今回の戦争は単一の理由で起きたことではなく、複合的な原因や事情が折り重なっている。
ただ、そのなかで、気候変動にからむ事情が、日本のメディアでは見落とされがちではないだろうか。気候変動問題が解説に登場しても、それは間接的なわき役としてだ。例えば、ロシアからの天然ガス輸入にドイツが大きく依存していることは、しばしば議論の的になっている。その際には、ドイツが「愚かにも」脱原発と脱石炭を掲げて再生可能エネルギーにかじを切ったことが、ロシアの国際銀行間通信協会(SWIFT)排除などの強い制裁措置に尻込みをさせたという批判を呼んでいる。一方で、ロシアにエネルギーの根幹を握られている危うさが今回の危機で浮かび上がり、再エネへの転換こそが安全保障につながるという反論も出た。
だが、こうした議論は、あくまでもエネルギー政策の方向性をめぐる次元の話であり、どちらの立場も、ロシアの侵略が欧州連合(EU)の気候変動政策にもたらす影響を分析したものにすぎない。逆にここで欠けているのは、気候変動のほうがロシアの政治経済にもたらしている影響の分析である。
■必要となる「人新世」の概念
そのような分析のために必要となるのが、「人新世」という概念だ。「人新世」とは、人類があまりに巨大な力を持つようになった結果、地球という惑星のありかたを改変した時代を指す。なぜこうした新たな時代区分が必要かといえば、人間が自然を支配・操作し、自然の脅威がなくなる「自然の終焉(しゅうえん)」を目指した近代化の果てが、むしろ、改変し過ぎた自然に人間が翻弄される、逆転現象をもたらしているからである。