そう考えると、シッカートこそが切り裂きジャックで、その部屋をわざと描いていた。なぜ描いたのか?自分が切り裂きジャックだったことを自分なりの証言で伝えたかったのかもしれない。これは怖い。不気味な絵なので、ぜひ、ネットで調べてみてほしい。

 この絵を軸にして、怖い絵をちりばめながら、尾上松也演じる怖い絵の収集家が、事件の謎を解いていくミステリーサスペンスが舞台「怖い絵」です。

 この中で、ジャック ルイ・ダビットという画家が描いた「ナポレオン」の絵がある。白馬に乗って峠を越えるナポレオン。一度は見たことあるだろう。

 ナポレオンに関しては、実は馬に乗るのが苦手だったとの噂もあり、「レディ・ジェーン・グレイ」を描いたポール・ドラローシュが、ラバに乗って峠を越えているナポレオンを描いている。そして、晩年は、髪の毛も薄くなり小太りだったともいわれていて、ポールは、ナポレオンの死後、そんなイメージとは違うリアルなナポレオンを書いている。イメージするナポレオンとは違うのだが、目の鋭さが逆にリアルだなと感じるんですよね。

 皆さんがイメージする格好いいナポレオンを描いたジャックルイダビットはナポレオンのお抱え作家だったんですね。だからビジネスとして、強くて格好いいナポレオンをたくさん描いている。

 自分を自分以上に見せる絵を描き、「これが俺だ」と人々に伝えていくこの頃からこうやって絵を使って印象を操作して、支配しようとしていたのかもしれない。

 今、この絵を見ると、いろいろ思うことが込み上げてくる。

 さまざまなメッセージを伝える絵。舞台「怖い絵」を見て、メッセージを感じませんか?

 3月21日まで東京公演、3月24日から27日まで大阪公演があります。このエッセイで普段こんなことを書きませんが、本当に今見てほしい舞台になったので、是非!!

■鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)が好評発売中。毎週金曜更新のラブホラー漫画「お化けと風鈴」の原作を担当し、自身のインスタグラムで公開、またLINE漫画でも連載中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)、長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が発売中。作演出を手掛ける舞台「怖い絵」が2022年3月に東京・大阪にて上演。

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