胸が痛む。何かできることはないか。友人は青と黄のウクライナ国旗を作り、デモに行くという。私はウクライナ大使館の募金に参加した。
私にできることをする。いつ何時、我が身にふりかかってもおかしくない。実際に戦争の体験のある私たちの年代には我が身のこととしてよみがえる。二度と戦争は起こしてはならない。火種は小さなうちに潰しておかねばならない。そしてもし起きた時には、自分がどういう行動をとるか考えておくべきだ。
今回、ボリショイバレエの団員は西欧各国で公演をキャンセルされ、著名な指揮者ゲルギエフはプーチンに近い人物として、カーネギーホールでの公演をやめざるを得なかった。
私はゲルギエフのエネルギッシュな指揮によるチャイコフスキーの「エフゲニー・オネーギン」などを聞いている。だが、いま文化人やスポーツマン一人一人が、自分の立ち位置を問われている。
新潟空港からロシアのハバロフスクに飛び、二時間ほどの近さに慄いたことがある。遠くの国の出来事でなく、私たち自身のことなのだ。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年3月18日号