「耳垢は食事をするときの咀嚼(そしゃく)も手伝って、5カ月かけて自然と出ていきました。なのに、動画に協力した女性はその翌日、一度だけ自分で耳掃除をしたんです。綿棒が耳垢をはがして、奥に押し込んでしまいました」
ただ、植田院長はこう言う。
「耳垢が見えると、エチケットの問題がありますよね。私は患者さんには入り口の見えるところに耳垢があったら、それだけを耳かきでそっと取ってもらうように言っています。やめたほうがいいのは、綿棒を使って手探りで耳垢を取ろうとすること。逆に奥に押し込んでしまう可能性があります」
家庭での耳掃除の結果、耳垢をためるのは問題だ。前出の白馬教授によると、子どもに耳掃除をしたことがないのに、就学前健康診断で耳垢栓塞(せんそく)と診断される場合がある。耳垢で耳が塞がってしまう病気だ。子どもが指や物で耳をいじることで炎症が起きてかゆくなり、分泌物が増えて耳垢の量が増えてしまうのだという。
■高齢者は注意が必要
高齢者も注意が必要だ。自浄作用が弱まって耳垢がたまり、耳が聞こえにくくなることがある。難聴は認知症を進める原因になるので、定期的に耳鼻科で耳垢のケアや聞こえ方の確認をしたほうがいいという。
白馬教授はこう提案する。
「日本人の7割が、耳垢がカサカサした乾性タイプなので勝手に出てきやすいのですが、湿性タイプの人は出にくい。つまり、人によって耳垢の性質が違います。歯科で歯石を定期的に取ってもらう人は多いですよね。それと同じで、耳垢が排出されにくいなら、耳鼻科で取ってもらうといいと思います」
そもそも耳の酷使には気をつけたい。白馬教授は予防法についてこう話す。
「イヤホンを使うときは、奥に入れすぎないようにして、使うのは1日1時間程度にとどめたほうがいいと思います。ヘッドホンでも騒音による難聴にならないように音量や長時間の使用には気をつけましょう」
実は、耳と精神はつながっている。白馬教授はこう話す。
「耳鼻科ではコロナ禍にストレス性の疾患が増えています。ストレスがたまって、耳鳴りや突発性難聴、耳の近くを走る顔面神経のまひになる人が増えています。ストレスがたまらないように気をつけましょう」
「耳の中がかゆいときは、人さし指で耳を餃子(ぎょうざ)のような形に折り曲げて、耳たぶをマッサージすることで耳のかゆみも和らぎます」
(編集部・井上有紀子)
※AERA 2022年3月14日号から抜粋