コロナ禍で耳の不調を訴える人が増えている。耳垢を気にする人もいるが、家庭で耳掃除する必要は基本的にないという。耳鼻咽喉科の専門医2名に話を聞いた。AERA 2022年3月14日号の記事を紹介する。
【写真】「ボニータボニート東京」では耳の内部を利用者がモニターで見ることができる

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帝京大学医学部附属溝口病院(川崎市)耳鼻咽喉(いんこう)科科長の白馬伸洋教授はコロナ禍での耳の酷使についてこう語る。
「ウェブ会議や音楽をイヤホンでガンガン聞く若い人の間で、騒音による難聴が増えています。ストレスで耳をいじったり、イヤホンに慣れない人が耳の奥に押し込むあまり、赤く腫れることもあると思います。耳が細菌感染して炎症を起こす外耳炎(がいじえん)という病気です」
イヤホンばかりでなく、耳いじりや耳掃除により外耳炎になると、耳の中でかゆみや痛みが起きる。
さらに悪化すると、浸出液も出る。耳に汗腺は多くないので、耳から浸出液が多く出た場合は汗ではなく、外耳炎の可能性が高い。
白馬教授はこう指摘する。
「イヤホンを入れすぎて、耳垢を耳の奥に押し込んでしまう人もいると聞いています。ワイヤレスイヤホンの付けっぱなしも非常によくありません。耳の中に傷ができると、分泌物が増えて、さらに耳垢の量が増えます。今、何かと耳をいじりすぎています」
植田耳鼻咽喉科(浜松市)の植田洋院長は「耳掃除は基本的に必要ない」と言う。
「耳垢自体は汚いものではありません。耳垢は細菌やウイルスを防御するため酸性になっていて、においでも小さな虫が入らないようにする役割があると言われています。むしろ耳垢は耳の入り口にある程度あったほうがいいのです」
■耳垢が5カ月後に外へ

植田院長らは耳掃除が必要ないと証明する動画を作った。日本耳鼻咽喉科学会・静岡県地方部会のYouTubeで公開した「耳のそうじは本当に必要なの?」という動画だ。
「ある女性の耳を5カ月間、観察しました。鼓膜はピンと張った皮膚です。鼓膜は常に再生されていて、耳の皮膚の一部になって、数カ月かけて外側に移動します」
奥から移動してきた皮膚が、入り口から1センチの奥にある耳垢腺(じこうせん)から分泌される液体と混ざり合い、脱落して耳垢になる。耳垢の黄色っぽさは、耳垢腺の分泌物の色らしい。