●「抵抗以外に選択肢がない」
ある日の午後、カフェラテとチョコレートケーキをはさんで、マリアム、ラムジアの2人と話をした。
「外交官になりたかった」とラムジアは言う。大学では国際関係論を学んだ。しかし、タリバンが政権を握っている限り、女性が外交官になるチャンスはない。「命令されて、ただ家にいて結婚して、子供を4人産むだけしか許されない未来なんて、私はいや」。マリアムも頷く。
デモ参加者たちは今、追われる身だ。「タリバンのスパイから尾行されているかもしれないから気をつけて」とラムジアはマリアムに忠告する。米CNNテレビのインタビューを受けたラムジアの親友は1月中旬、武装した男たちに自宅で拘束され、2月中旬に解放されるまで行方不明だった。
地元ジャーナリストが人権活動家の話として語ったところによると、北部マザリシャリフでは、タリバンに拘束された複数の女性がレイプされた。事実だったとしても、家族の名誉を重んじる文化の中では被害が公になることはない。不名誉だとして、被害者が肉親に殺されることもあるのだ。
マリアムとラムジアも、タリバンと名乗る男の声で「お前たちを見つけ出す」と脅迫電話を受けた。ラムジアは毎晩、寝る場所を変えている。デモもしばらく中断を余儀なくされたが、女性たちはこれで終わりにするつもりはないという。
「危険なことは分かっている。でも私たちには他に選択肢がないの」と2人は言う。「この国の未来に責任があると思う。もし国を出なければならなくなっても、国外でアフガニスタンのために働きたい」。
ラムジアには、フェイスブック上でタリバンの友達がいる。タリバン内の最強硬「ハッカニ派」の有力者で35歳だと明かしたその男性は、カブール制圧前は、日々の戦況を自慢げに教えてくれ、「困ったことがあったら相談してくれ」とまで言っていた。ラムジアが実は大胆に行動する固い意志を持った女性であるとは、柔らかな笑みを浮かべたプロフィール写真から、彼は想像できないのだろう。(舟越美夏)
■ふなこし・みか/ジャーナリスト。1989年共同通信社入社。 2001年からプノンペン、ハノイ、マニラ各支局長を歴任。カンボジアの元ポル・ポト派主幹幹部、アフガニスタン戦争、スマトラ沖地震津波、ベトナムの枯葉剤被害などを取材した。19年に共同通信社退社。著書に『人はなぜ人を殺したのか―ポル・ポト派、語る』(毎日新聞社)、『その虐殺は皆で見なかったことにした』(河出書房新社)など。龍谷大学犯罪学研究センター嘱託研究員。