週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』より

■治療の選択肢が増加。安全で確実な手技の検討を

 心臓手術は大まかに分けると4種類ある。(1)心臓の表面にあって心臓に栄養を送る「冠動脈」の、詰まった部位の下流にう回路を作る「バイパス手術」、(2)全身の血液循環をつかさどる心臓の四つの部屋(心室・心房)にある弁のしくみを直す「弁置換術・弁形成術」、(3)大動脈瘤や大動脈解離を起こした血管を、人工血管に置き換える「大動脈手術」、(4)心臓の肥大や拡大などによりポンプ機能が衰えた場合に、心筋の一部を切り取るなどして、動きを取り戻す「左室形成手術」がそれだ。

 今回、前図のチャートで示しているのは、全身へ血液を送り出す左心房と左心室の間にある「僧帽弁」が正常に閉じなくなり、血液が逆流する心臓弁膜症の一つ「僧帽弁閉鎖不全症」に対する治療例である。

 順天堂大学順天堂医院の浅井徹医師はいう。「僧帽弁閉鎖不全症の原因はさまざまです。弁そのものが変性している状態、弁には問題がないが左心室が拡大変性して閉鎖不全になっている場合などがあります。原因は、単純なものから複雑なものまで、患者さん一人ひとり、多岐にわたるので、病気の原因と変化の程度を評価して、適切な治療法を決める必要があります」

 チャート図で紹介しているのは、持病はあるものの、65歳と比較的若く、全身状態が良好なため手術を選択した例だ。

 「僧帽弁閉鎖不全症の多くの場合は、変性した自分の弁を修復する『弁形成術』がよりよい治療だと考えます。弁を取りかえる『弁置換術』は確実ですが、僧帽弁の変性に対しては、形成術をおこなったほうが長期に利点が多いことがわかってきました」(浅井医師)

■小切開低侵襲心臓手術を実施する病院が増加

 手術のアプローチ方法は、以前からおこなわれている胸骨を縦に切り開く「正中切開手術」が標準的だが、近年「小切開低侵襲心臓手術(MICS)」が注目されている。肋骨(ろっこつ)の間を5~6センチほど切って手術する。

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