研究チームが分析した計785人は、認知機能の検査も受けている。最初のMRI撮影の時と2回目の撮影時を比べ、同じ課題を終えるのにかかる時間が長くなる、つまり認知機能が低下した度合いは、感染経験者の方が大きかった。
研究チームは、こういった脳の変化が起きた原因として、少なくとも次のような3種類の可能性があると指摘する。
一つは、嗅覚を司る神経系を介して、ウイルスが脳に損傷を与えた可能性だ。感染者には嗅覚障害が起きることがよく知られている。また、ウイルスに感染して体内で起こる免疫反応の一環として分泌される、様々な生理活性物質が影響した可能性もある。3番目の可能性としては、嗅覚障害のために嗅覚刺激が脳に入りにくくなり、脳神経の活動が低下し、その影響により脳の変化が生じたのかもしれない。
こういった脳の構造などの変化が、一時的なもので、いずれ回復するのか、それとも不可逆的な変化なのかは、さらに長期間、観察しないとわからないという。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2022年3月28日号より抜粋