それでも、どうなのだろう。90年代に「未来」にみえた技術は、今もまだ「希望」のままなのだろうか。子どもを諦めていた人にとっての新たな希望、として語られてきた代理出産は、そのまま「善きこと」として受け取れるほどシンプルなものなのだろうか。
90年代にアメリカ発で急速に認識され拡大してきた代理出産に対し、代理出産を経験した当事者の女性をはじめ、人権、搾取の観点から代理出産に反対する声は広まりつつある。この問題に長年警鐘を鳴らし、研究を続けてきた柳原良江氏(東京電機大学理工学部教員)が代表を務める「代理出産を問い直す会」のウェブサイトなどに詳しいが、代理出産をする女性側のリスクは相当、この数十年で明らかになってきている。
出血、重篤な産後うつ、ストレス、不安、早産、低出生体重、流産、絶対安静、重大な心理的圧迫、自分の産んだ子を手放すことの重大な心理的影響……。特に大量のホルモン剤を投与されて受精卵を着床する場合の身体的リスクがどれほどのものかは、いまだにわかっていないこともある。また、依頼者から日常的に生活習慣(食べ物のことから、人間関係などに及ぶこともある)をコントロールされたり、自分の意思ではなく依頼者の意思が優先される帝王切開に応じたりしなければいけないことも報告されている。それでも、女性たちが代理出産を引き受ける最大の理由は、経済的困窮である。借金を背負っていたり、既に何人も自分の子どもがいたりして、外で働くことが難しい環境にあることもある。それでも代理出産を引き受けることで、心身のダメージを受け、自らの子を育てられなくなったり、就業が難しくなり、さらに経済的に困窮したりするケースも報告されている。
裕福な人々のために、斡旋業者が健康な子宮を持つ女性を集め、貧しい女性たちの子宮が商品としてレンタルされていく。身も蓋もない言い方をすれば、代理出産ビジネスとはそのようなものだろう。そこでいつも置き去りにされるのは、女性の身体だ。
世界を見渡せば、いまだに代理出産を合法的に認めている国は少数である。