ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』について。
* * *
35度超えの猛暑日が続いていた6月下旬。仕事のない時は、日がな一日ネットでドラマや映画を観漁っていました。とは言っても、私が観るのはすべて「過去に観たもの」。よほどの衝動や義務が生じない限り、初見や新作に手を伸ばすことはありません。
その日もNetflixで「お気に入り」をほじくり返してみたものの、気分に合った作品がなかなかなく、ふと映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年公開)を観ようと思い立ちました。最後に観たのはおそらく大学生の頃なので、優に25年は経っています。作品のテーマ的にも観返すにはちょうど良い頃合いかもしれません。
相変わらず途中で意味が分からなくなり何度も巻き戻したりしていたら、観終わるのに3時間ぐらいかかる羽目に。しかし、さすが不朽の名作とされているだけあって面白かった。何よりも自分が「マイケル・J・フォックス好き」だった事実を思い出し、ときめきました。
結局、その勢いでPART2とPART3も一気に観てしまったわけですが、ひとつだけ気になることが。鑑賞中10分に1回ぐらいの頻度で、映画コメンテーターの有村昆さんの顔がサブリミナル的に脳裏を過るのです。有村さんは数多ある映画作品の中でも特に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』への思い入れが強く、作中に登場する車「デロリアン」を自ら所有するほどのマニア。以前も何かの映画イベントで、マイケル・J・フォックス演じるマーティの格好に身を包み、自身のデロリアンに乗って登場する場面をテレビで観たような。
別に有村さんと親しいわけでもないのに、なぜ私はこんなにも有村昆の「バック・トゥ・ザ・フューチャー愛」を記憶し、作品本体とセットに捉えているのか? もちろん有村さんに非はありません。私の脳が勝手にそうしているだけです。かくして、25年ぶりに観た『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、全編「有村昆」に染められていました。25年前には誰も予言し得なかった未来です。