2月に行われた北京五輪で、平野歩夢は前人未到の大技を決めて金メダルを手にした平野歩夢さん。大逆転の舞台裏やスケートボードとの二刀流の挑戦について振り返った。AERA 2022年4月4日号の記事から。
【写真】蜷川実花が撮った!AERA表紙を美しく飾った平野歩夢
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――北京五輪スノーボード男子ハーフパイプ決勝。最終滑走に臨んだ平野歩夢(23)は、不可解な判定を鮮やかに覆し、逆転で金メダルを手にした。五輪史に残る熱戦の主役は、あのとき何を考えていたのか。
2本目。空中で斜め軸に縦3回転、横4回転する、超大技「トリプルコーク1440」を組み込んだ「人類史上最高難度」と評されるルーティン(技の構成)を初めて大会で成功させた。
平野:練習でも決めたことのないような、自分の今できるマックスの滑りができたと思いました。
――ところが、得点は91.75点と伸び悩んだ。暫定1位のスコット・ジェームズ(オーストラリア)にも0.75点及ばなかった。
平野:シンプルに(採点が)おかしいと思った。今までスノーボードの大会にたくさん出て、この技はこれぐらいの点数だというのを見てきたからこそ、「いや、あれは、やっぱ負けてないよな」っていう気持ちで、納得できないというか、怒りがありました。
――最終3本目のランでは「自分のマックスの滑り」を上回り、最高得点をたたき出さなければ勝ち目はない。トリプルコーク1440とは別の新技「フロントサイド1620」(横4回転半)も五輪に向けてかなり練習してきていたが、新技は温存し、3本目も2本目と全く同じ構成でいくことに決めた。
平野:新しい技を入れるのはリスクが高いし、なにより、同じルーティンでもう一回、ジャッジも含めて再確認させたいなと思ったんです。
■自信を持っていられた
――重圧の中、一つ一つの技の高さや完成度を高めて96.00点を獲得し、逆転で金メダルを手にした。
平野:難易度が高く、オリンピック前までに大会で成功したことがないルーティンだったので、(2本目と3本目の)連続で決めるのは奇跡に近かった。ほんとぎりぎりでしたね。
――普通なら、不可解な判定に動揺し、怒りから余計な力が入り、ミスしてもおかしくない。怒りをうまく昇華できた理由について尋ねた。
平野:たぶん、オリンピックまでの時間がこれまで通りだったら、緊張とかプレッシャーとかもあったと思うんですけど、あの場面では正直そういうのがなにもなく、自分に自信を持っていられた。スイッチが入っていましたね。