偏差値70の頭脳を持つ東大生が信じてしまう「怪奇現象」とは一体何なのか。そんな風変わりなテーマの本を書いたのは、『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』などを手がけた東大出身の映画監督・豊島圭介氏(50)。東大出身者11人から実体験に基づく怪談を聞き出し、取材結果を著書『東大怪談』(サイゾー)にまとめた。論理的&科学的思考が身についている東大生の頭脳でも説明がつかない不思議な事象の数々は、これまでの怪談集とは一線を画す。東大生ならではの「怪奇の物語」を豊島氏に聞いた。
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怪談というと、おどろおどろしい演出や派手な語り口を想像するが、豊島氏によると、東大生たちは目にした現象を客観的に、自身の体験から逸脱せずに怪談を語るという。話がブレるような人はおらず、頭の中で論理的に現象の処理をした結果、それでも論理の枠に収まらないと感じる情報を提供する話者が大半だった。
「皆、話がうまかったですね。構成を練ってきた跡があった人もいましたし、中には落語のように語る人もいました。話にこだわりがあって、完成度の高いものとして伝えたいという意志を感じました。自分なら完ぺきに語れるはずだという意識のある方も多かったと思います」(豊島氏)
実話怪談が信ぴょう性を持つためには、「豊かなディテール」があるかも重要となる。例えば「柳の下にお化けが出た」という話であれば、「柳の下になぜか片足が裸足で、薄汚れた黄色いワンピースが肩まで落ちている、白髪交じりの髪を腰まで垂らした女性がいた」といった細部まで語ることで、予定調和ではない独自性やリアルな感触を帯びてくる。
「誰も想像しないようなディテールが語られた時に、この話は確かにこの人が体験した事象なのだろうなと思えます。その点、怪談を語る東大出身者たちは皆、一様に記憶力が良く、体験談には豊かなディテールがありました。すごく昔の話を鮮明に覚えている人が多かったですし、記憶力が良いということをアイデンティティーにしている人もいました」(豊島氏)