自由な校風で知られる京都大学を卒業し、起業した人々。今回はCHIE-NO-WA 代表理事 福田千恵子さん(経済学部)にスポットを当てる。
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「『女子力』という言葉が生まれることで女子力を磨く人が増え、『加齢臭』という言葉が生まれることで加齢臭を気にする人が増える。『ツーリストシップ』という言葉を作ることで、観光客の受け入れてもらう力と観光地の受け入れる力、双方が磨かれてほしいと思いました」
こう話すのは、一般社団法人「CHIE-NO-WA(チエノワ)」(京都市上京区)の代表理事を務める福田千恵子さん(23)だ。
経済学部3年のとき、京都の観光地に大勢の客が訪れ、住民の生活に支障が出る状態が「観光公害(オーバーツーリズム)」と呼ばれることを新聞記事で知った。観光シーズンに大学へ向かう市営バスが大幅に遅れるなど、自身も身に覚えがあった。
「京都のために何かできないか」と2019年、学内で自身の名前とかけた「千恵の遺産」という名のプロジェクトを立ち上げ、観光客と住民が互いに寄り添い合う意思表示のツールとして、伝統工芸品である京くみひもで作られたブレスレットを考案した。商品にツーリストシップに関する説明書きを添えた。観光客か住民かを問わず、賛同者が購入できる。
1個1100円。レストランや土産物屋を中心に、これまで1千個以上を売り上げた。趣旨に共感した人から寄付の申し出も相次いだため、同年秋にはプロジェクトを社団法人化した。
スタッフは7人で、専業は今のところ福田さんのみだ。現在は「ツーリストシップ教育」という名前のもと、小中高や大学生、観光協会などを対象に、フィールドワークを通じて観光地の課題を洗い出す研修も手がける。
昨年は緊急事態宣言の発令にともない研修がキャンセルになることもあったが、オンラインショップを開設しブレスレットを売るなど、知恵を絞って乗り切った。
「京大には人とは違うことをおもしろがり伸ばす環境がありました。おかげで今は多少のことがあっても不安に感じません」
京都でもまん延防止等重点措置が解除され、観光地も少しずつにぎわいを取り戻している。現在は関西を中心に活動しているが、大阪・関西万博を機に、世界に向けて情報を発信していきたいと考えている。(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2022年4月8日号