孤立を深めるプーチン大統領(gettyimages)
孤立を深めるプーチン大統領(gettyimages)

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続いている。ロシア軍が撤退した首都キーウ郊外の町では計400人を超える民間人の遺体が見つかった。米国のバイデン大統領はロシアのプーチン大統領を「虐殺者(Butcher)」と批判し、アメリカのメディアはプーチン自らが頼りにしていた情報機関や側近から孤立し始めたと指摘する。しかし、ロシアと国境を接し、バルト海に面するラトビアで日本大使を務めたことのある多賀敏行さんは、追い詰められたプーチンの孤立は、暴走につながり、核兵器が使われるリスクが高まったのではないかと懸念する。

【写真】プーチン氏の顔写真とともに「間抜けなプーチン」の文字が書かれた火炎瓶

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 プーチンは、威力の大きい通常兵器を使うかのように核兵器を使うのではないか――。

 そう懸念を示すのは、元ラトビア大使の多賀敏行・中京大学客員教授だ。

 多賀元大使は、2012年から15年にかけてラトビアで大使を務めていた。ラトビアもまた、1918年の建国以来、ロシアによる軍事侵略の危機にさらされてきた国だ。

 1940年からソビエト連邦に編入され、50年にわたりほぼロシアの支配下にあった。ソ連時代の象徴的な遺物として残るのが、核シェルターだ。首都リガから75キロほど離れた場所に、小川の流れる美しい村がある。ソ連時代の古めかしい建物には、地下9メートルまで掘られた核シェルターがいまも残っている。核戦争が起きたときに避難する施設。もちろん、ラトビア人ではなく、ソ連の共産党幹部が避難するためにつくられたものだ。

■明日にでも起こり得るロシアの脅威

 1991年に独立したものの、住民はロシアへの脅威を肌で感じて生活している。ロシアとの国境からラトビアの首都リガまでは、車でわずか2、3時間程度の距離だ。

「朝起きたら家がロシアの戦車に囲まれていた」

 ラトビアのそんなブラックジョークからは、ロシア軍の侵略が明日にでも起こりうる、という現実が伝わる。

 人口およそ200万人のうちラトビア人が120万人で、残り80万人がロシア語話者といわれる。

「プーチンは世界中どこでも、ロシア語話者が迫害されたらロシアは軍隊を送って守る権利がある、と公言しています。ロシア語話者の多いラトビアにとって、ロシアによる侵略(と核の使用)は、明日にでも起こり得る脅威です」

 ロシア、特にプーチンに対する評価は、ロシア周辺国と日本とではまるで違う。それは核兵器についても同じだ。

 NPO法人「日本核シェルター協会」が2014年に発表した各国の人口あたりの核シェルター普及率についての資料を見ると、意識の差は歴然としている。

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核シェルター、日本の設置率は世界と比べて…