■「可搬式」運用の背景
日本大学理工学部交通システム学科の小早川悟教授によると、「可搬式オービス」が生まれた背景には2つの要因があるという。
「従来型の速度違反取り締まり装置は大きなものでしたが、技術革新で小さくなり、さまざまな場所に簡易的に設置できるようになりました。さらに制限速度の低い生活道路で速度超過を抑える必要性が背景にあります」
小早川教授がこう語るのには、生活道路での交通事故の発生件数の減少率が鈍化している現状がある。
交通事故死者数のピークは1970(昭和45)年で1万6765人が亡くなった。平成になると死者数は減少し続け、昨年は2636人と過去最少となった。
道路種別で見ると、幹線道路での交通事故は目に見えて減っている一方、生活道路における交通事故発生率はほぼ横ばいが続いている。
ちなみに、生活道路での人口あたりの年代別死傷事故件数は全年代のなかでも小学生が断トツに多い。
警察庁は生活道路における歩行者や自転車の安全な通行確保を目的とした対策として、区域(ゾーン)を定めて時速30キロの速度規制をする「ゾーン30」を20年度末までに全国4031カ所に整備した。
「ところが抜け道としてよく使われるエリアにゾーン30規制をかけても実際には車はなかなか速度を落とさないんですよ。そこで次のステップとして、昨年から警察庁と国土交通省が連携して『ゾーン30プラス』を整備し始めました」(小早川教授)
ゾーン30プラスでは、速度規制に加え、道路に「ハンプ」と呼ばれる凸部や、狭窄(きょうさく)部などを設けて車の速度を抑制する。
「ただ、『パンプ』『狭窄』というのは道路形状を変えるので、お金がかかるうえ、地域住民との合意形成にも時間がかかる。そこで速度抑制策の一つとして可搬式速度違反取り締まり装置が使われている。つまり、かたちのうえでは速度違反取り締まりですが、実際はドライバーに注意喚起を促して、速度を落とさせることがメインになっているのです」(小早川教授)
「可搬式オービス」は容易に移動できるので、毎日設置が変わる。
「なので、ここはもしかしたら取り締まりやっているかもしれないと、ドライバーが認識して速度を落とす効果が期待されるわけです」(小早川教授)
子どもを巻き込んだ悲惨な事故が起きる前に、ドライバーの意識が変わることを願いたい。(AERA dot.編集部・米倉昭仁)