……まだまだ事例は続くのですが、今日はこの辺りまでにしておきましょう。性差別は不意打ちでやってきます。残念ながら、まったく無傷で生きていくのは難しい社会でもあります。女性に対する認知がゆがんでいる社会で、性暴力やセクハラは職場でも学校でも起きることがあります。自分が被害当事者になることもあるでしょう。それは本当につらい体験になると思いますが、でも、一人じゃありません。信頼できる友人や同僚、上司や教師を確保することも、生き抜くうえで大切なことです。そして、性差別がどんな顔をしているのか見抜くことも、大切な生きる技術なのです。
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この原稿を書き終わってすぐ、早稲田大学の社会人向けビジネス講座で、吉野家の常務取締役(4月18日付で解任)の男性が「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」という発言をしたことがニュースに流れた。
ニュースになったのは、講座を受講していた女性がSNSで告発したからだが、これこそ不意打ちの性差別の最たるものだろう。なにしろこの講座は38万5000円(税込み)もする連続講座の一つだ。まさか、日本を代表する企業の男性がそんなレベルであるはずがない……まさか40万近くも支払う講座の内容がこんなはずがない……しかも連続講座のタイトルは「デジタル時代のマーケティング総合講座」だ……これはきっと夢……と、耳を疑いたくなってしまいそうなレベルの性差別である。
しかも吉野家の男性取締役は、この発言を「ジョーク」として語り、そしてその「ジョーク」に反応し笑う受講生もいたという。そういうなかで、この女性がSNSできっちり「おかしい」と声をあげられたことを、素晴らしいと思う。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表