現在でも、建物を新築すると、その所有権の取得から1カ月以内に「表題登記」を申請しないといけない。これを怠ると10万円以下の過料が科される。板垣さんは「これで過料になった事例を聞いたことがない」という。こうしたことから推測して、2年後の義務化で過料にする場合は限られるのではないかと、板垣さんはみている。

 実際に土地を相続して登記する場合、どんな問題があるのか。相続登記には手間がかかる。たとえば山林などを相続しても利用されていなければ、登記で名義変更をするメリットはない。登記には費用もかかる。

 究極の選択として、罰則10万円に対し、登記関連の手続き費用が数十万円かかる場合だ。該当した当事者が、どちらを選択するのか。たとえば、山林は広大な面積となり、境界の確定のため測量が必要になると、その費用だけでも莫大になる。

 山林には林業を営まず、放置されたままのものもある。そうした山林は「国に寄付をするか、相続放棄をしたい人が多いようです」(門間さん)。しかし、こうした二束三文の土地は「行政も寄付で受け取ってくれません」(板垣さん)。現在の相続人が手放したくても簡単には手放せないという問題は残る。

 一方、山林の管理は費用や手間もかかるうえ、放置しておくと土砂崩れなど災害を引き起こす恐れもある。

 さらに、板垣さんは「お金をかけても、数十人の相続人がいる場合、協力してもらえないと手続きができない」と問題を提起する。

 所有者不明土地問題研究会の報告書は、その問題点として、次のように指摘する。

(1)不動産登記簿の情報が必ずしも最新でない(2)土地所有者の探索に時間と費用がかかる(3)探索しても本当の土地所有者にたどりつけない可能性もある(4)国土荒廃や治安悪化、獣害、土地利用・取引の停滞など弊害が多岐にわたる。

 さらに報告書は、17~40年の累積の経済的損失が少なくとも6兆円規模になるとしている。探索コストで500億円、機会損失が2.2兆円など。手続きや管理コストなどは算出が不可能で、実際にはさらに大きな損失になるとみている。

 相続登記を怠り、放置していると、相続人がねずみ算式に拡大する恐れがある。さまざまな問題を残しながらも、相続登記は義務化される。

「登記の際の印紙代を少し安くするとか、何か飴がないと進まないのではないか。地球温暖化で自然災害が多くなっており、応急対策で必要になってくる」(門間さん)

(本誌・浅井秀樹)

週刊朝日  2022年4月29日号

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