報酬に目がくらんだ。それも、家族ぐるみの付き合いがあった友人だったこともあり、二つ返事で仕事を引き受けることにした。
「コンピューターでマリ軍の位置を追跡するような仕事だった。マリ軍の友達がいる私に、電話をかけさせて、どこにいるか、どんな道を通るか探っていた。私が軍の友達に電話をかけた1~2分後には、コンピューターで位置情報がわかるようになっていた」
だが、Kさんは働いて1カ月もしないうちに、「危険な活動に加わっているのではないか」と疑念を抱くようになる。Kさんが電話をかけた2、3日後、マリ軍を標的にしたテロ攻撃がニュースになった。テロが起きた場所は、Kさんがコンピューターで示した位置と同じ場所だった。「テロに関与しているのかもしれない」とKさんに戦慄(せんりつ)が走った。調べると、仕事のボスはイスラム過激派テロ組織の人物だとわかった。
■荷物を運ぶだけで20万円の仕事
仕事を紹介してくれた友人は「そんな仕事ではない」と否定した。それでもKさんは「辞めたい」と申し出ようとしたが、友人はいきなり態度を急変させ、「入ったら絶対に抜けられない」と怒りをあらわにした。
「友達はすごく怒った。その場ですぐに辞めるとは言えなくなってしまって、『ちょっと考えたい』と伝えた。辞めたら大変なことになるなんて、想像もしていなかった」
仕事を辞めようと悩んでいるKさんに、その友人は、今度は別の仕事を紹介してきた。
首都バマコから、東部にある都市ガオに荷物を運ぶ仕事だった。通常であれば、運賃は2万円ほどだが、資金として20万円を渡された。
「荷物を運ぶだけだったから引き受けようと思った。でも、20万円もくれたから、怪しいとは思った」
Kさんは疑念を抱いたが、友人から「絶対に怪しい仕事ではない」と念を押され、信じることにした。
指定された場所に荷物を受け取りに行くと、テープでぐるぐる巻きにされた大きな箱があった。移動手段はバスを指定された。バスで荷物チェックを受ける可能性があるため、Kさんは箱に少し穴をあけて中身を確認した。すると、銃などの武器が詰まっているのが見えた。