この資料によると、進水年月は1985年2月、造船所は「B造船所」であることがわかった。
さらに「日本客船総覧」(1989年)を見ると、カズワンと同じ形と思われる船の写真を見つけることができた。事業者は広島県のC汽船という会社で、航路は県内の三原~瀬戸田。定員は79名で、船質はFRP、進水年は1985年、B造船所とこれまでの情報と一致する。
先の男性は、こう説明する。
「船舶は使用環境やオーナーの好みによって改造されることがあり、多少の差異はでてきます。しかし、自動車、飛行機などほかの乗り物と比較して船舶は製造数が少なく、造船所と建造年、仕様等が同一であれば限りなく同一船の可能性が高いです。それに加えて、B造船所という会社はあまり旅客船を建造していないため、カズワンとA社の船、C汽船の船は同じだと見ています。子どものころC汽船のこの船に乗ったことがあります。悲惨な海難事故が起きて残念でならないです」
水域の特性を見て建造も
これらの情報について、どう見るべきか。FRP廃船のリサイクルを行う日本マリン事業協会の黒田光茂リサイクルセンター長は「あくまでも一般論」としたうえで、こう説明する。
「FRPは寿命が設定されているわけではありません。FRPは腐食するようなものではなく、適切に使用されて、整備されていれば、30年でも50年でも十分に使用できる素材です。22年が経った船の引っ張り試験をしたところ、生産したときとほとんど強度が変わらないほどです。しかし、適切に使われていなかったり、整備されていなかったりすれば話は変わってくる。船体に強い衝撃を受け、補強材がはがれていたり、割れていたりすると船体の寿命は早まります」
瀬戸内海で航行していた船が、北海道・知床という荒波が想定されるオホーツクの外海で航行することの影響はないのか。
「通常、旅客船は運航事業者が定める安全管理規程に基づいて運航されており、各事業者は、海域の条件や船の性能に応じて、例えば波高が何mは運航を中止するなどと決めている。ただ、例えば同じ風速でも地域によっては波の特性は変わってくる。漁船であれば、瀬戸内海仕様や沖縄仕様、東北仕様など海にあわせて製造している場合もあると聞いています。遊覧船についても造船所やオーナーの判断で水域の特性を見て建造することはあるでしょう」
全国には事故を起こさずに長く活躍する船が数多くある。カズワンよりも古い船も珍しくない。改めて適切に運行されているか、管理がなされているかが問われている。
(AERA dot.編集部・吉崎洋夫)