差別意識は一朝一夕でつくられるものでも、一人で掘り下げていけるものでもない。この発言が事件なのは、この手の会話が笑い話になる空気が今の日本にある、ということを突きつけられるからである。この発言が、特別な個人の特別な認知の歪みではなく、女性を性的にからかっても許されてきた日本のリアルだからである。だからこそ、発言者はこれを「ジョーク」として語り、受講者たちは笑ったのだろう。何の痛みもないまま。

 吉野家はこの問題発言がネットで「炎上」してすぐに謝罪を公表し、男性を解任している。早稲田大学も即日に謝罪をHPに載せ、この「デジタル時代のマーケティング総合講座」から男性の名前は消した。こういった対応の迅速さは、こういったことがある度に声をあげてきたことの成果なのかもしれないが、いい加減、「再発を防ぐ」ということを、もっと考えるべきではないだろうか。そもそも何が性差別なのかがわかっていない人が多いから、再発防止対策のしようがないのかもしれない。デジタルを語る前に、組織の上の人にこそ、人権を学んでほしい。

 ちなみに、早稲田大学のビジネス講座の講師陣を見て衝撃を受けている。講師陣25人中、女性はたった一人だった。日本が女性を育ててこなかった結果かもしれないが、いくらなんでも少なすぎる。女性講師が多いと、受講生が減るというデータでもあるのだろうか? 男性ばかりでデジタル時代のマーケティングを語り、女性を貶める笑いに興じる。多様性が軽視された環境で起きた事実も、重く捉えるべきだろう。

 今回の発言に関して、この手の問題が起きると必ずある、「フェミニストの言葉狩りだ」という類の発言は少なかった。その一方で、「女性差別だけじゃない。吉野家ファンの男性も差別している」「牛丼に失礼だ」という声は大きかった。それはそれで、フェミニストとしてはモヤモヤしている。

 確かに牛丼にもお客様にも失礼な発言ではあるが、これが許してはいけない「女性差別である」ことを、社会が共通認識として持たない限り、また問題は繰り返されるだろう。なぜなら、差別は突然生まれるのではなく、私たちが日々、育てあげてきているものだからだ。その深刻さを私たちは考えるべきなのだ。

週刊朝日  2022年5月6・13日合併号

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