作家の北原みのりさんが緊急寄稿した。
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「失言」とか「炎上」というレベルを超えた「事件」だと私は思う。そう話すのは作家の北原みのりさん。牛丼の吉野家の49歳男性常務取締役(既に解任)による、早稲田大学の社会人向けビジネス講座での発言だ。なぜ差別発言は繰り返されるのか。問題の根深さに絶望が重なる。
吉野家元常務取締役の男性は、18~25歳の女性たちを吉野家にどう集客するかという話題のなかで、こういう発言をした。
「田舎から出てきた右も左もわからない女の子を無垢・生娘のうちに牛丼中毒にする。男に高い飯を奢ってもらえれば、(牛丼は)絶対食べない」
そしてその“集客戦略”(←本気?)を、「生娘をシャブ漬け戦略」と名付け、笑いながら繰り返したという。「ウケる」「ウケた」という確信があってこその繰り返しだろう。
この「事件」が公になったのは、受講生の女性がSNSで告発したことがきっかけだったが、報道によれば40人の受講生の中には笑っていた人もいるという。受講生の年齢やジェンダーはわからないが、この講師が呼ばれた「デジタル時代のマーケティング総合講座」という連続講座の受講料は38万5千円である。大学のホームページによれば支払い方法は一括のみなので、40万近い金額を一括で支払える程度の年齢、資金力がある人々のための講座なのだろう。その事実が、この問題の根深さを表している。
改めて何が問題かを具体的にあげていこう……とした途端に、なんでいつも「やられる側」が説明してあげなきゃわかんないわけ?と投げ出したい思いにもなる。1年前の「わきまえない女」発言(by森喜朗)のとき、学ばなかったのか?と怒りも深まる。
今回の「生娘をシャブ漬け」も、女性蔑視という意味では基本的に「わきまえない女」と同じである。でも、今回のは街中でいきなり刃物を向けられるような暴力性が際立っている。森喜朗発言にも「笑い」が起きたことに衝撃を受けたが、「生娘をシャブ漬け」で笑う感覚には、怒りの感情に、絶望が幾重にも重なるのだ。その恐怖は、大きくわければ三つある。