■患者さんとその家族、社会と向き合いたい
そんな彼女が、ミスコンテストに出場したのはなぜか。
「奇麗なドレスを着たり、すてきな写真を撮ってもらったり、普通ではできないことが体験したかったというのが最初の動機です。ただ、ミスコンは外見で選ばれるというより、どれだけ応援されるかを競う場だと気付きました。自分が応援してもらえるように、写真や文章で自分を表現してSNSで発信したことは、いい経験だったと思います」
医師を目指すうえで影響を受けたのは、小説『神様のカルテ』(夏川草介)だ。24時間365日を看板に掲げた病院で患者に寄り添う内科医の物語に感銘を受け、「人の役に立ちたい」という強い思いを抱いて医学部を志した。
「入学したらすぐにでも患者さんと接して病気のことを知りたいと思っていましたが、まずは健康で正常な状態の体の構造を覚えることから始まりました。生化学の授業では難しい化学反応式が多く出てきて、『なんのために学ぶの?』と思ったこともありましたが、体の仕組みを論理的・体系的に理解するのは重要なんですよね。そこが医学部の魅力のひとつだと思います」
医師国家試験を1年後に控え「試験勉強と、患者さんへの治療を考えることは、頭の使う場所が違うかもしれません」と冷静に語る。患者と向き合いたいとの思いから、志望するのは総合診療医だ。
「もちろん臨床能力は一番に磨く必要がありますが、私は患者さんと話すなかで、その人自身やご家族、社会とも向き合いたい。診察室や病棟といった限られた世界だけではなく、広い視野を持っていたいんです」
ミスコンだけでなく学生時代のさまざまな経験が、医師としての視野を広げるに違いない。
中島梨沙(なかじま・りさ)1998年生まれ。京都府立洛北高校を卒業後、神戸大学医学部進学。2020年「ミス神戸大」に選ばれた。
(文/小林哲夫)
※週刊朝日ムック『医者と医学部がわかる2022』より抜粋