「時代の雰囲気も違うけど、半世紀を経てのライブはいかがですか?」
「自分の音楽をやってしまうだけ。あの頃早稲田の構内で我々がやった演奏は特別な状況でね、ゲバ学生が占拠する教室にジャズメンが乗り込んだ。ピアノは大隈講堂から勝手に担いでくるというすごいことをやりましてね。これは喧嘩(けんか)になるってTVディレクターだった田原総一朗さんがカメラを回した。火炎瓶が飛び交ったらどうやって逃げようか。ピアノはここのものだから僕は立ち上がって逃げちゃえばいい。中村はサックスを抱えて逃げますなんて言っていた。森山はドラムに火つけられたらもうしょうがない。そうしたら学生たちがしーんと聞いてくれちゃった。音楽が勝ったんだ。そんな思い出とともに今日ここに来ています」
山下さんは春樹さんの店、ピーターキャットに行ったこともあるという。
「難しいけど、素晴らしい立場なんですよ、ジャズバーのマスターって。客に何を聴かせようかっていうことから始まって、教養ある話をリードしたりね。ジャズバーにはインテリが集まる。それを束ねるんだ。そう思うと村上さんという人のことがよくわかります」
早稲田の学生時代、ジャズバーを始めた春樹さんが山下トリオを迎えて母校大隈講堂から世界配信されるライブをプロデュースする。文字通りの「再乱入ライブ」だった。
(次号に続く)
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年8月5日号