「働く一人一人の仕事のリズムとばらつき、テレワークにおける裁量権の二極化が、職場の上司や同僚との間、顧客との間で混在しているのが、今の職場の実態と言える。急速に浸透した働き方なだけあり、まだまだ課題も多い」(リクルートHR統括編集長、藤井薫さん)

 企業側の声も見てみよう。日本経済新聞社が行った調査(「新型コロナ対策テレワークに関するマネジメント層を対象としたアンケートレポート」、2020年)によれば、テレワーク・在宅勤務を実施していると回答した人のうち大企業所属の91%、中小企業所属の71%が、運用において何らかの課題を感じていると回答。押印作業など紙を前提としたワークフローへの対応や、持ち出し可能なPCやリモートで業務を行うためのシステム・ツールの導入への課題、また「執務場所が自宅になると生産性が落ちる社員がいる」との声も聞かれている。

写真はイメージ(GettyImages)
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 あるIT企業の人事担当は、こう頭を悩ませる。

「テレワークで勤務態度や正確な勤務時間が見えない中、社員の評価基準をどう変えるかが大きな課題。どうしても個人戦の動きが強まり、チームでの動きが鈍化してしまう傾向にあることも、対策を打たなければならない項目。リモート環境下では、ともすれば生産性や成果ばかりが評価基準になりがちだが、結果に至る過程も評価に加えたいとなると、どう考えるべきか……」

 生産性、成果——―。テレワークの自由さと表裏一体のシビアな面を象徴する一つのキーワードだ。転職メディア「転職アンテナ」を運営し、現在の転職事情に詳しい戸塚俊介さん(moto代表取締役)は言う。

「フルリモートは、自由に見えて、実はアウトプット勝負のシビアな世界。“今日あなたは何をしていましたか?”の問いに対して、明確に成果を提示しなければ評価されない世界とも言えます。フルリモートでは勤務態度が見えない分、成果主義にならざるを得ない。単に“楽そう、自由そう”で応募すると、痛い目を見るかもしれません」

 多様な働き方が広がり、自分に合った働き方を試せる時代。場所や時間にとらわれないワ

ークスタイルを目指すなら、フルリモートも悪くない選択肢かもしれない。今後ますます広がる可能性も高い、“出社しない働き方”。企業と働き手の試行錯誤は、始まったばかりだ。(松岡かすみ)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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