そういう中で、「あくまでもリアル性交」「リアル暴力」にこだわる日本のAVは何だろう。それにおすみつきを与えようとする法案は、誰のことを見ているものなのだろう。
骨子案には契約の問題が細かく記されていた。契約に問題があれば訴えればいい、ということである。しかし、契約が盤石ならば被害は生まれないというのは、性暴力被害、AV被害の実態を知らない甘い考えだ。実際、契約書に自分の意思で自分の手で自分の名前を書いたとしても、それが完全に契約を理解したものだとは限らない。特に若ければ若いほど、判断は未熟なものになるだろう。
例えば、今、AV業界では契約の際にカメラを回すことが求められている。それは強引な契約ではないということの証拠として、メーカー側に保存されるものだ。でも、考えてみてほしい。社会経験が圧倒的にない若い女性が、大人の男たちに囲まれていたらどうだろう。撮影の当日、ギリギリまで出たくないと思っているのに、「契約にサインしたのは君だよ?」「撮影をばらしたら、数百万円の損失になるよ」などと言われたら、断れなくなる。
怒鳴られたわけではなく、殴られて出演を強いられたわけでもない。自分の手でサインし、自分の足で現場に向かい、自分で服を脱ぐ。でも、それはどこからが自分が決定したことなのか、どこからが諦めたことなのか……自分でも分からない。それが、AV出演の被害の実態だ。契約がしっかりしていればしているほど、被害を口にすることは難しくなる。ノーと言えなかった。怖かった。フリーズしていた。あれは性暴力だった。と思いながらも、被害の証拠を残せなくなるのだ。
今回、与党が出してきた骨子案は、そういった性被害者の声を伝えてきた支援団体の思いを踏みにじる内容に私には読める。むしろ業者側に都合よく、今後、業者が「適正」に性交をリアルに記録し、安全に業界を維持できるものになっていくだろう。そこでうまれる被害の大きさを思うと、あまりにもつらい。
今回の骨子案に関わった議員の一人は、AV被害者の支援団体のヒアリングの場で、「この骨子案は寝ないでつくった。がんばった」ということを強調していた。「まだ不十分な法律かもしれないが、それでも一歩進めるべきだとは思わないのか」と言う議員もいた。今回の骨子案は18歳、19歳に限らず、全ての年代で、契約に問題があった場合は契約解除ができるというものでもある。確かに、この骨子案で救われる被害者もいるだろう。でも、それ以上に被害が拡大する可能性のほうが大きいことは、被害者支援に関わる経験をもつ者には一目瞭然でもある。
いったい、誰のための、何のためのAV新法だろう。こんな大切な法案を、力ずくで通してはいけないのではないか。