「もはやしずか」で好演した黒木華(撮影・森好弘)
「もはやしずか」で好演した黒木華(撮影・森好弘)

「康二と麻衣は夫婦だけど、まだ男女のままの形。個人が一緒の家にいるだけでつながりがなく、家族になり切れていない」

 そうか、まだ「男女のままの形」なのか。それが幾度か小噴火を繰り返し、次第に夫婦になっていく。僕は黒木の本質を見抜く力に舌を巻いた。

 麻衣は夫と離婚し、ひとりで出産する。無事に生まれた我が子の写真を手に元夫の両親のもとへ行き、その足で別れた元夫を訪ねる。子どもにも父親が必要だと考え、「過去のことなんだから、とりあえず子どもの顔を見て」と迫り、元夫には逃げ場がなくなる。

 知人を介し、ひょんなことで“華ぼう”こと黒木華と食事をしたのは、彼女を阿佐ケ谷スパイダースの舞台で観たばかり、10年以上前のことだった。

 丸眼鏡をかけ、内気に見えた少女は数年後、ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を日本人最年少で獲得、現在は日本を代表する俳優になったが、原点は今回のような舞台にある。

 臆することのない伸び伸びとした演技と深い洞察で、黒木華は同世代の圧倒的な支持を得ている。

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中

週刊朝日  2022年5月20日号

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