トランプ前大統領(右)はオハイオ州で主催した集会で、自ら推薦した共和党のJ・D・バンス上院議員候補者と握手した/4月23日(写真:gettyimages)
トランプ前大統領(右)はオハイオ州で主催した集会で、自ら推薦した共和党のJ・D・バンス上院議員候補者と握手した/4月23日(写真:gettyimages)
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 米中間選挙は政権への信任投票の意味合いが強かったが、今回は様相が違う。社会の分断をあおってきたトランプ前大統領が再び存在感を示している。AERA 2022年5月23日号は、揺れる米国の現状を報告する。

【図】任期途中の中間選挙の結果はこちら

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「J・D・バンスとはいったい何者?」

 11月8日の米中間選挙投開票日までまだ半年もある5月3日、米中西部オハイオ州のある候補者が全米ニュースとなった。

 その候補者は、若いベンチャーキャピタリストのJ・D・バンス氏(37)。共和党内で同州の上院議員候補を1人に絞る予備選挙が3日に投開票され、新人ながら勝利した。有力対立候補はよく知られた州会計検査官で反トランプ派。バンス氏はトランプ氏の推薦を受けていた。トランプ氏のスポークスパーソンは、声明でこう宣言した。

「トランプ氏の影響があったことは否定できない。『アメリカを再び偉大な国にする(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン=MAGA)』運動は、この先何年も勝利し続けるだろう」

 バンス氏は、ベストセラーの半生記『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社)を2016年に出版。人の良さそうな作家というイメージが定着していた。

 中西部「ラスト・ベルト(さびついた工業地帯)」の白人貧困層の家庭に育ち、母親はヘロインや麻薬性鎮痛薬(オピオイド)中毒で、家庭内暴力が絶えなかった。だが、バンス氏は祖母の助言で海兵隊からオハイオ州立大学、さらに名門エール大学ロースクールに進み、世界の億万長者や政治家と交わるトップの高所得者にのし上がった。

 上院議員に立候補する前は、かなり激しいトランプ批判論者だった。ところが、一転してトランプ派となり、過去の批判ツイートなども削除した。トランプ氏もよく出演する保守系テレビのニュース番組に頻繁に登場。「フェイクニュースのメディア」「(大統領の)バイデンは国境を開放し、犯罪人を入国させている」と、トランプ氏と同じ発言を繰り返し、今回の勝利をものにした。

「トランプの力は、やはり本物だったのか」

 と米メディアが浮足立ったゆえんだ。

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