「鎌倉殿の13人」では義時を支える北条政子役、小池栄子の演技が好評だが、昭和のドラマファンにとって大河、北条政子といえば「『草燃える』の岩下志麻!」ではないだろうか。岩下さんに北条政子、そして「鎌倉殿」について聞きました。
* * *
私が北条政子を演じさせていただいた大河ドラマ「草燃える」の放送が1979年だったから、あれからもう40年以上経つんですね。
今でも私に対する「北条政子」のイメージが強いようで、最近は特に「鎌倉殿の13人」が、同じ時代を描いているからかしら、よく「岩下さんの政子、見ていました」って、お声をかけられます。
たくさんの役を演じてきましたけど、政子は特別な思い入れのある役です。
映画や他のドラマは短期集中で2、3カ月で撮影するでしょう。でも大河ドラマは1年間、同じ人間を演じなければならない。その1年間は政子になって政子の人生を生きるというか、政子が自分の体に乗り移ったような状態になっていました。
最後のシーンを撮り終わった後、楽屋に戻ったら全身から力が抜けてしまって。しばらく虚脱状態で、動けなくなってしまったんです。それぐらい、政子が自分の中に生きていたんですね。
政子のイメージは「強い人」「嫉妬深い人」といったところかと思うんですが、とても愛情深い人だったんだと思います。頼朝に対しても、子供たちに対しても。だから「亀の前事件」(※政子が頼朝の愛妾の家を焼き討ちした)を起こしたりしてしまう(笑)。
ただそれも真面目で一本気だからなんですね、頼朝を心から信じていたからこそ、裏切りが許せなかった。強い愛情の裏返しなんです。
頼朝が亡くなった後も、尼将軍として頼朝のつくった鎌倉を守らなければって、毅然(きぜん)と対応します。
当時は乳母の存在が大きくて。頼家も実朝も乳母たちに育てられたので、子供たちをとても愛しているんだけど、気持ちが伝わらない。娘の大姫には先立たれてしまいますしね。
だから政子は母親として大変哀しい人生を送ったと思います。
「草燃える」は永井路子先生の原作で、日本の歴史上珍しく波瀾(はらん)万丈な生涯を送る女性を、いろいろな面から描かれた。
そのぶん演じるのは大変だとは思ったのですが、だからこそ演じてみたいとも思ったんですね。
そういえば私、政子を演じた後、なぜか鎌倉や伊豆に行くことが多かったんです。プライベートの旅行で。伊豆に行くと落ち着くというか、懐かしい気持ちがして。