グレアム・スウィフトの小説を映画化した「帰らない日曜日」。出演はほかにコリン・ファースとオリヴィア・コールマンというアカデミー賞俳優が脇を固め、晩年の主人公をアカデミー賞2度受賞の名優グレンダ・ジャクソンが演じている。
1924年、暖かな3月。その日はイギリス中のメイドに年に一度の里帰りが許される<母の日>。しかしニヴン家で働く孤児のジェーン(オデッサ・ヤング)には帰る家がなかった。そんな彼女のもとに、秘密の関係を続ける隣家の跡継ぎのポール(ジョシュ・オコナー)から無人の邸への誘いが届く。婚約者との結婚を控えるポールは、前祝いの昼食会への遅刻を決め込み、邸の中でジェーンと愛し合う。
やがてポールは昼食会へ出かけ、ジェーンは一糸まとわぬ姿で広大な邸を探索する。だが、ニヴン家に戻ったジェーンに思わぬ知らせが待っていた……。今、小説家になったジェーン(グレンダ・ジャクソン)は、振り返る。人生を永遠に変えた日のことを。
本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)
■渡辺祥子(映画評論家)
評価:★★★★
作家として名をなす女性の転機になった“あの日”の衝撃。孤児からメイドになった女性の恋と第1次大戦後の英国上流家庭の暗鬱。人生と世相と衝撃の出来事が細やかに編み上げられて浮かぶ一人の女の生き方が深く心に残る。
■大場正明(映画評論家)
評価:★★★
出番は多くないが、戦争で息子たちを亡くした母親を演じるO・コールマンが存在感を放つ。映画版では、喪失に打ちひしがれるこの母親と、喪失と向き合うことで才能を開花させるヒロインのコントラストが際立っている。
■LiLiCo(映画コメンテーター)
評価:★★★★
あの時代だからこその空気感。深呼吸した。太陽の光の美しさでエロティシズムを感じます。体毛で読み取れる気持ち良さ。危険な恋愛は燃えます。全てを失った過去を強みに変える大切さも教えてくれて、背中を押された。
■わたなべりんたろう(映画ライター)
評価:★★★
戦争の影を背景にしたメロドラマの良作。作り込みが丁寧で端正過ぎるのと感傷が幾分過ぎてバランスが良くない。原作を絶賛したカズオ・イシグロの映画化作品とはそこが違う。俳優陣が良く、特にJ・オコナーが輝く。
(構成/長沢明[+code])
※週刊朝日 2022年6月10日号