通算四球1位は王の2390個で、2位の落合と915個も差があることを考えても、王の傑出具合が分かる。「世界のホームラン王」を見て育った世代の野球少年は、毎晩のようにあったナイター中継で王の本塁打を楽しみにしていた。王は現役生活22年で通算11866打席、通算868本塁打。つまり、13.7打席に1本、3~4試合に1本の割合でホームランを打った。だが、その前に立ちはだかったのは、5打席に1個の割合の四球だった。しかし、現在のプロ野球界では、打者はいかに四球を選べるか、投手はいかに四球を出さないかが、選手を評価、獲得する指標として広く活用されている。いわゆる「OPS」(出塁率+長打率)、「WHIP」(<与四球+被安打>÷イニング)、「K/BB」(奪三振と与四球の割合)である。

 すなわち「四球は安打と同じ価値がある」――米大リーグ、アスレチックスのGMビリー・ビーンが資金力に乏しい球団を強豪チームに育て上げていく過程を描いた『マネー・ボール』の中で、四球の重要さを論じていた。

 その他、「1試合5四球」は87年、西武の清原和博、2014年、巨人坂本勇人、17年、広島の鈴木誠也、20年、ロッテのマーティンなど、強打者が並ぶ。「連続試合四球」最多は18試合で、70年の王、16年、ソフトバンクの柳田悠岐の2人がいる。当代随一の打者への警戒ぶりをうかがわせる、柳田の面目躍如の記録であった。変わったところで通算四球史上10位は谷繁元信の1133個。谷繁は打順8番が多く、バッテリーは9番を打つ投手と勝負するため歩かされるケースが多かった。

 通算四球8位は1234個の福本豊。足が速いので四球を出せばそのまま二塁盗塁の可能性が高い。出塁させたくないのはやまやまだが、福本は通算208本塁打とパンチ力もあった。バッテリー側は「甘い球を投げて本塁打を打たれるより、四球のほうがましだ」、福本には「ボール球をよく見極めて四球出塁、二盗したい」の意識があったと思われる。

 通算四球11位は1086個の立浪和義、14位は1055個の鳥谷敬だ。2人とも通算2000安打を放ち「名球会入り」している好打者だが、通算本塁打数は立浪が171本、鳥谷が138本と長距離打者ではない。バットを振って塁に出る確率は3割程度でも、ボール球を振らなければ確実に出塁してチャンスメークができるのだ。

その意味では、当時、広島の丸佳浩が18年に「シーズン130四球」を記録している。王を除けば「シーズン最多四球」選手ということで特筆ものだ。その年の丸は打率.306、39本塁打、97打点で、ポイントゲッターにもチャンスメーカーにもなった。広島は巨人以外で初のセ・リーグ3連覇を成し遂げ、その原動力として丸はMVPに輝いた。――「四球は安打と同等の価値がある」を実践した打者であり、それを熟知しているのが強打者なのである。(新條雅紀)

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