AERA 2022年6月20号より
AERA 2022年6月20号より

■一番将棋を指している

 永瀬は努力の人である。もちろん、17歳で四段に昇段した永瀬に才能がないはずはない。しかし永瀬に勝るとも劣らぬ英才は同世代中には幾人もいた。競争が激しいこの世界で、永瀬がトップクラスに成長できたのは、誰もまねできない努力の成果だ。その姿勢は、タイトル保持者となった現在も変わらない。

「藤井さんとたぶん、生涯一番将棋を指しているのは自分なので」

 棋聖戦が始まる前、主催者からのインタビューに、永瀬はそう答えていた。早くから、はるか年下の藤井に1対1の研究会を申し込み、指し続けてきた。

 プライベートでは仲がよい両者であっても、公式戦での勝負となればまた別だ。千日手2回が永瀬の戦略の先にあったのかはわからない。ともかくも藤井の強さを誰よりも知る永瀬は、手段を尽くして藤井に勝った。

「一日でとことん教えていただいた」

 永瀬は対局後にそう述べている。

「将棋は体力」

 というのは藤井の師匠の師匠にあたる板谷進九段(故人)の名言だ。永瀬は将棋盤の前に座り続けて疲れを見せないという点でも棋界トップクラスだ。両者の通算対戦成績は藤井7勝、永瀬4勝。直近では永瀬の3連勝中だ。面白い五番勝負になってきた。(ライター・松本博文)

AERA 2022年6月20日号

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