所のYouTube動画を見ると、「世田谷ベース」として知られる彼の事務所兼遊び場スペースに迷い込んだような気分になる。楽しそうにしている様子をありのままに見せることで、見る側も自然と楽しい気分になる。所はそんなエンターテインメントの本質的な構造をよくわかっている。
長く続いている冠レギュラー番組を数多く持っているので、所のことを「テレビタレント」や「司会者」として認識している人も多いかもしれないが、彼の本業はあくまでもミュージシャンである。
しかし、そこで生活費を稼いでいるわけではない。彼の作る楽曲はかなり独創的で形容しがたい魅力に満ちている。それはすぐにお金になるようなものではないかもしれないが、彼にとっては最大の楽しみでもあるのだろう。
何もかもが数字に換算されて、その価値を判断される時代になった。YouTuberは再生回数やチャンネル登録者数を増やそうと必死になり、SNSユーザーは「いいね」の数を競い合う。
しかし、本当は誰もがわかっているはずだ。数字は数字に過ぎない。個人が味わう面白さや感動や興奮は、そもそも数値化できるようなものではない。
所ジョージの歌はたしかに売れていない。あれだけ長く活動していて、多くの人に知られるようなヒット曲は皆無である。しかし、ミュージシャンとしての所は、誰よりも音楽を楽しんでいる人間であるのは間違いない。そして、そんな所の生き方に魅了される人は日本中にたくさんいる。
意味がないことが面白い。役に立たないから笑える。無駄だから価値がある。そんな考え方やものの見方を当たり前のように受け入れられるようになったら、私たちは所ジョージのようにもっと気楽に、もっと愉快に生きられるはずだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)