五木寛之(いつき・ひろゆき)/ 1932年、福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮半島にわたり、47年引き揚げ。57年に早稲田大学ロシア文学科を中退。その後、編集者、ルポライターを経て、66年、『さらばモスクワ愚連隊』で小説家デビュー。同作で小説現代新人賞を受賞。『蒼ざめた馬を見よ』(67年)で第56回直木賞、『青春の門』(76年)で吉川英治文学賞を受賞。そのほか代表作に、『戒厳令の夜』『風の王国』『親鸞』『大河の一滴』『ステッセルのピアノ』など。(撮影:写真映像部・松永卓也 編集協力:一木俊雄)
五木寛之(いつき・ひろゆき)/ 1932年、福岡県生まれ。生後まもなく朝鮮半島にわたり、47年引き揚げ。57年に早稲田大学ロシア文学科を中退。その後、編集者、ルポライターを経て、66年、『さらばモスクワ愚連隊』で小説家デビュー。同作で小説現代新人賞を受賞。『蒼ざめた馬を見よ』(67年)で第56回直木賞、『青春の門』(76年)で吉川英治文学賞を受賞。そのほか代表作に、『戒厳令の夜』『風の王国』『親鸞』『大河の一滴』『ステッセルのピアノ』など。(撮影:写真映像部・松永卓也 編集協力:一木俊雄)
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 世間では断捨離が流行っていますが、作家・五木寛之さんは「捨てない生きかた」をされています。作家・林真理子さんもモノを捨てられない性格。お二人はモノを通じて、いろいろなことを思い出すそうで……。

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林:先生の『捨てない生きかた』というご本が評判で、たくさんの人に読まれています。断捨離とはまったく異なった生き方ですよね。

五木:そう、正反対。ひねくれてるんだ(笑)。

林:私もモノが捨てられないんです。まったくモノを持たない人がテレビとかで紹介されると、「何が楽しくてこんな何もない部屋に住んでるんだろう」と思ってしまうんですよね。

五木:僕は築50年の古いマンションに住んでるんだけど、仕事部屋なんかゴミ屋敷ですよ。体を横にして通ってるもの。

林:ご本がものすごい量なんじゃないですか。

五木:林さんこそ大変じゃないんですか。『李王家の縁談』なんか、資料、大変だったんじゃないですか。

林:先生は洋服なんかもお捨てにならないそうですね。

五木:いま着てるこの服、42年目になるかな。はいてるズボン、これは1973年につくったものです。洋服類は、40年以上何も買ってないなあ。

林:体形が変わらないというのもすごいです。

五木:いやいや、脚が短くなりました(笑)。靴は、1968年、「五月革命」下のパリで、デモの真っ最中に一軒だけ開いてる店があって、そこにロンドンブーツが置いてあったんです。見たらジッパーがYKKだったんですよ。民族意識をちょっと刺激されて、サイズもぴったりだったのですぐに買いました。だけど、はかずにいまでも部屋に転がしてあります。

林:50年以上前に買った靴を、一度もはかずに?

五木:うん。それを夜中に手に取って眺めると、催涙ガスと銃声の中で学生がワーッと声を上げていたサンジェルマン・デ・プレの大騒乱の景色が、まざまざと浮かんでくるんだよね。でも、過去の記憶がよみがえるためには依代(よりしろ=ある記憶を呼び起こすモノ)が必要だと思うのです。

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