打ち上げが成功し、探査機の機能確認が無事に終わると、探査機班は内之浦を引き上げて相模原に戻ってきます。宇宙研の中にある管制室から探査機をコントロールするのですが、最初の1カ月ほどは探査機の製造に携わったメーカー(NEC)のエンジニアが運用を担当します。宇宙に飛び出したはやぶさは、軌道上でなかなか安定しませんでしたが、地上からコマンド(命令)を送信して姿勢を制御し、探査機のクセのようなものを見つけながら操作を確認していきます。その作業の横でコマンドリストづくりの手伝いなどをしながら操作の手順を理解するのが新人の私の仕事でした。
■たった1カ月で、探査機の操作を指示するスーパーバイザーに
ところが、1カ月ほどして探査機の運用がメーカーから宇宙研へとバトンタッチされると、操作を指示するスーパーバイザーの順番がいきなり私に回ってきたのです。それまで探査機を操作していたメーカー側のエンジニアが、「探査機はこういう状態です。津田さん、どうしますか?」と、逐一指示を求めてきます。
管制室から探査機と交信するためには、地球側のアンテナと探査機側のアンテナがお互いに正しく向き合っていなければなりません。地上から見ると天空は180度ありますが、地球側のパラボラアンテナが電波を捉えられる角度(ビーム幅)は0.03度ほどです。その精度でパラボラアンテナの向きと探査機の姿勢とを正しく保つように指示できなければ、探査機を飛ばすことはできないのです。
新人の私は、心の中で「知っているくせに何でオレに聞くんだ」「わかんないよ、どうすればいいんだろう……」と冷や汗をかきながら、右往左往することが何度もありました。
それは、決してイジメなどではなく、プロジェクトの指揮命令系統が変わったことをメーカー側がきちんと守っている証拠です。さらに言えば、小さなミスが許されるような状況で判断を任せることには、新人の私を育てる意図もあったと思っています。こうした「究極のOJT(On the Job Training)」ともいえる体験が、はやぶさ2のチームづくりでは存分に活かされたのです。