7月の週末。都内屈指の人気の山、高尾山(標高599メートル)に大勢の登山客が訪れていた。
埼玉県から友人と一緒に来たという30代の女性は、
「外で気分転換したいけど、コロナ禍で街中に行くのも心配。山だと人との接触も少なくいと思って」
と話すと、山頂を目指した。
コロナ禍で、「密」を避けるため気軽に行ける低山への登山が人気だ。特に高尾山のように都心からアクセスがいい山は、多くの登山客が訪れる。しかし今、高尾山のような低山での遭難者が増えている。
警察庁が6月9日に発表した統計によると、昨年1年間の全国の山岳遭難での遭難者は3075人。統計を取り始めた1961年以降、過去2番目の多さとなった。そして例年に比べ富士山などの3千メートル級の山での遭難者は減ったが、東京近郊の山での事故が増えたという。
主な山岳別に遭難者を見ると、富士山(標高3776メートル)は24人で過去5年平均より48人減った。南アルプスの北岳(標高3193メートル)は12人と過去5年平均より6人減った。
一方、冒頭の高尾山は85人と過去5年平均より8人増えた。2千メートル級の山々が連なる秩父山系は175人で過去5年平均より47人増、1千メートル級の「里山」では1622人と過去5年平均より235人も増えている。
遭難の状況で最も多いのは、「道迷い」で41・5%。次いで「転倒」(16・6%)、「滑落」(16・1%)と続く。
なぜ、低山での遭難が増えたのか。
東京都山岳連盟の救助隊副隊長の加藤秀夫さん(76)はこう見る。
「山は非日常の世界で、決して安全な場所でありません。それにもかかわらず、レジャーの延長として訪れる人がいます。靴は登山靴ではなくスニーカーやサンダル履きなどの人を見かけますが、こうした間違った認識が遭難の増加につながっていると思います」
実は、山で道に迷うリスクは低山ほど高いと加藤さんは指摘する。
「高い山は道がしっかりしていて、分岐点には道案内の指導標が立っています。しかし、低山の道は生活道路です。必要最小限の指導標しか立ってなく、どうしても道に迷いやすくなります」