下重暁子・作家
下重暁子・作家
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 人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「選挙報道」について。

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 七月十日午後二時頃、参院選の投票に行った。投票所はマンション隣にある病院所属の大学校舎である。

 歩いて八分ほど、近づくにつれ人が増えてきた。いつもはバラバラなのにとぎれることなく人波が続く。それも若いカップルが多い。その中に私たちのような高齢な夫婦がまじる。みな約一メートルの間隔をあけて、コロナ以来こうしたマナーは身についてきた。マスクのない人もいない。

 順序良く投票をすませた後、会場を後にすると、品のいい黒い洋服姿の女性が出口に立っていた。

「ちょっとよろしいですか?」

 とつれあいに話しかけた。これが出口調査というものか。私は先に行って少し離れたところから見守った。

 後で聞くと、選んだ政党、岸田政権の評価、今の物価高への意見など、多くの質問があったという。

 そのつれあいは、かつてテレビ局に勤めていた頃、報道プロデューサーとして、特に選挙報道に力を入れていたので、ていねいに答えている。様々な意見の持ち主を集め、次々に当選者が決まる中で、討論に近い番組構成が新しかった。

 最近では各局とも選挙報道に工夫をこらし、芸能人を司会者に据えたりして、右を見ても左を見ても、視聴者に受け入れられやすい番組作りばかりが目立っていた。

 しかし、今回は安倍元首相の悲劇の後でもあり、NHKやテレ朝などは、ニュース番組のキャスターが中心になり、早さだけでなく深さも考えられていた。小手先の工夫ではない、日本の政治に真正面から向かう姿勢が感じられた。

 王道に戻ったのである。視聴者のためのサービスは、こうした番組には必要ない。芸能人を使ったり、バラエティ感覚で作られたものは視聴者への媚びでしかない。

 せめてこうした番組ぐらいは、王道に戻って各局の誇るキャスターを中心とし、硬派のゲストの話をききたいものだ。

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