『最強脳 ―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業― (新潮新書)』アンデシュ・ハンセン,久山 葉子 新潮社
『最強脳 ―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業― (新潮新書)』アンデシュ・ハンセン,久山 葉子 新潮社
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 2021年に話題となった一冊が、過去に本サイトでも紹介した『スマホ脳』です。精神科医でもあるアンデシュ・ハンセン氏が、スマホが心の健康にどのような影響を及ぼすのかを最新研究をもとに明らかにした『スマホ脳』は、ハンセン氏の出身国スウェーデンのみならず、日本でも50万部を超えるベストセラーとなりました。

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 『スマホ脳』が日本語で刊行されたあと、ハンセン氏は日本のメディアからもたくさんの取材を受けたそうです。そのなかで多かった質問が「うちの子の脳にいちばんいいことはなんでしょうか」だったといいます。

 その問いへの答えとなり得るのが、ハンセン氏の新作『最強脳 ―「スマホ脳」ハンセン先生の特別授業―』です。ハンセン氏は同書を「私たちの脳の取り扱い説明書」だとし、「実は、この本の結論は一言で言えてしまいます。運動をしよう――そうすれば脳は確実に強くなる」と冒頭で記しています。

 「脳を鍛えるには運動が最適」だなんて、さまざまなところで耳にしていて拍子抜けした人もいるかもしれません。しかし運動をするとなぜ脳にいいのか、正しく説明できる人はあまり多くないでしょう。

 私たちの脳は多数の脳細胞からできています。何かを考えたり感じたりしているとき、脳細胞は連携して働き、化学物質を使ったシグナル(信号)を互いに送り合います。この化学物質で有名なのが、快感や多幸感をもたらす「ドーパミン」。同書では「好きなことをすると、例えばおいしい物を食べたり、友達と会ったりすると、ドーパミンの量が増えて幸せな気分になり、満足を感じます」と説明。つまり自分にとっていいことをすると、脳は私たちに「ごほうび」をくれるようにできているというわけです。

 現代において、私たちが手軽にその快感を得られるのが「スマホ」。SNSで「いいね!」がつくたびに私たちは毎回小さなドーパミンのごほうびをもらうことができます。しかし「人間の脳はデジタル社会に適応していない」とハンセン氏は前作で指摘しています。スマホは便利な反面、うつ、睡眠障害、記憶力・集中力・学力の低下といったさまざまな症状を引き起こすことがわかっています。

 では体に悪くないドーパミンの出し方はというと、それこそが「運動」です。ハンセン氏によると、「運動することでより多くのシグナルが送られ、正しい指令が正しい場所に届くことで、脳が効率良く機能するようになる」(同書より)とのこと。しかも、「運動の後にもらえるドーパミンの方が、スマホからもらえるよりずっと量が多い」(同書より)のだとか! 運動はあらゆる認知機能に加え、集中力や記憶力、発想力などまでも高めてくれるそうです。特に、ADHDの人が集中力を高める効果はことさら大きいとの研究結果が出ているといいます。

 ほかにも、さまざまな科学研究を用いながら解説されています。「子供や若者に脳に興味を持ってもらい、体を動かすと何が起きるのかを知ってもらう」(同書より)という目的のもとに書かれているだけあり、親子で読むことができて子どもも理解しやすい内容になっています。スウェーデンでは10万人の小中学生が読んだという「脳力強化バイブル」。前作『スマホ脳』とあわせて一読してみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]