デンマークに本社を置く玩具会社「LEGO(レゴ)」。プラスチックのブロックの開発と製造しか手がけていないにもかかわらず、GAFAをしのぐ超高収益を叩き出し、玩具メーカーの中では世界一の売上高を記録しています。事業の成長にともなってブランド力も高まり、米調査会社のブランド信頼ランキングでは、2020年と2021年に2年連続トップに輝きました。
その成長の過程では、ターゲットを何世代にも拡大。2020年に任天堂とのコラボレーションで誕生した「レゴスーパーマリオ」は、記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。遊びだけでなく学びの価値も見いだし、今では大人向けのホビーグッズや経営戦略を構築するためのツールなどにも用途を広げています。
そうしたレゴの強さの秘密について、ジャーナリストの蛯谷 敏氏が独占取材し、1冊にまとめたのが『レゴ 競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』です。ここでは、その内容の一部を紹介します。
90年近い歴史を誇る中で、レゴは常に順風満帆だったわけではありません。深刻な経営危機が訪れたのは2004年。1980年代から各国でレゴブロックの基本特許の期限が切れたため、1990年代には競合する玩具メーカーからレゴよりも廉価で互換性のあるコピー品が次々と発売されるようになりました。さらに追い打ちをかけたのが、そのころ玩具業界に新しく登場した「ファミリーコンピュータ」や「ゲームボーイ」といった家庭用ゲーム機です。このためレゴは2004年に記録的な赤字になり、身売りを迫られるまで経営が追い詰められました。
そこで生き残るための大改革としておこなわれたのが、リストラによる人員整理とテレビゲームや番組制作など不慣れな事業からの撤退。そして創業者の理念に立ち返り、「レゴのビジネスは、レゴブロックの開発と製造から外れてはいけない」ことを経営の大原則として定め、デザイナーの意識変革や、ヒット商品を作り出す仕組みの構築に着手したのです。折しもインターネットの浸透によって、レゴのファンが集うコミュニティがネット上に生まれ始めたことも、レゴの復活を後押しする追い風になったといいます。
こうして経営危機から奇跡のV字回復を果たしたレゴ。著者はレゴが唯一無二のブランド力を持つ理由として、次の4つの強さを挙げます。
1、自分の強みを理解すること
2、継続的に成果をアウトプットする仕組みをつくること
3、コミュニティを育み、つながりを強化すること
4、存在意義を明確に発信すること
今後も経営危機に陥るリスクは常にあるものの、「それでも一つ明らかなことは、レゴには『自分たちは何者か』を問う企業文化がしっかりと根づいているということだ」という著者。
「『我々は何を成し遂げたいのか』『どんな価値を社会に提供できるのか』『レゴがなくなったら、社会は何を失うのだろうか』。レゴが常に投げ続けているこの問いは、『自分がいなくなったら、会社は何を失うのか』と読み替えることで、これからの時代を生き抜く私たちすべてに向けた問いにもなる」(本書より)
レゴの成功の法則に迫るとともに、社会や会社の中での「自分の価値」についても考えさせられる本書。価格競争にも技術競争にも負けない世界一のブランド力の育て方を、みなさんもぜひレゴから学びとってみてください。
[文・鷺ノ宮やよい]