『世界100年カレンダー 少子高齢化する地球でこれから起きること』
朝日新書より発売中

 爆発的に増えてきた世界人口が、どうやら21世紀中に減少に転じるらしい。

 事実ならば、人類絶滅へのカウントダウンが始まるということだ。それは人類史上最大の事件でもある。

 だが、人口が減ることで何が起きるのか。21世紀の国際勢力図が塗り替わるのだろうか。こうした疑問が『世界100年カレンダー』の執筆へと私の背を押した。

 データ分析を進めていくと、驚いたことに人類はかなり前から“絶滅への助走”を始めていた。しかも、早ければ30数年後にはその数を減らし始めそうである。

 そもそも“助走”に入るきっかけは何だったのか。最初に絶滅しそうな国、最も長く残りそうな国はどこなのか。次々と疑問が湧いてくる。これで書き方の方向性は固まった。各国の「未来の年表」を追いかけ、それを「世界カレンダー」として束ねることにしたのである。

 これは想像以上に困難を極めた。国内外のデータや資料を集めては翻訳し、分析する作業の繰り返しである。断片情報をつなぎ合わせ、照合しなければ全体像は見えてこない。気付けば1年以上の時が経っていた。

 分からぬままのことも多いが、得られた結論の1つは人類の分岐点が「1970年代初頭」だったことだ。ここを境に、世界の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産する子ども数の推計値)は下落カーブを描き始めた。

 では、1970年代初頭に何があったのか。疑問は深まるばかりだ。歴史も掘り起こさざるを得なくなった。
 当時の資料に当たっていくと、第二次世界大戦後の人口爆発に伴う開発途上国の貧困および資源枯渇への危機感という時代背景が浮かび上がってきた。

 きっかけは有識者会議「ローマクラブ」が1972年に発表した報告書「成長の限界」だった。オイルショックと重なって大反響を呼んだのだ。1974年に世界人口会議が開かれ、産児制限の機運が各国で盛り上がった。

 日本の合計特殊出生率が翌1975年を機に下落の歩みを速めたのも、1979年に中国が一人っ子政策を始めたのも、これと無関係ではないだろう。

 そうでなくとも、多くの国では経済成長と共に「多産多死」から「多産少死」、そして「少産少死」へと社会が変化していく。衛生環境が改善され乳幼児の死亡率が下がり、子どもを労働力として期待しなくても済むようになるためだ。放っておいても人々の価値観は「少なく産んで大切に育てる」へと変わっていくのに、政府が出生抑制の旗を振ったら少子化が急加速するのは当然だ。

 世界の合計特殊出生率は1970年代初頭の4・47から現在の2・42にまで下落した。早ければ2030年代に、人口維持に必要な2・1を下回る。「1」台になると減少のペースが速まり、歯止めがかかりづらくなる。

 しかも、人口減少というのは段階を踏んで進んでいく。減少の過程で人々を苦しめるのは少子高齢化に伴う影響だ。日本で起きている社会保障制度の破綻危機や勤労世代の減少による人手不足や経済低迷といった社会課題が、今後は各国を次々と襲うこととなる。

 他方、人類の減少は長期的に見れば、現在世界が頭を抱える地球温暖化や食料不足、感染症の拡大といった危機を解消に向かわせるだろう。これらをもたらした根本原因は20世紀から続く人口爆発だったからである。

 本書の原稿を書き進めていくうちに、世界が固唾をのんで見守る米中の覇権争いも人口動態で占えるのではないかと思えるようになってきた。中国の人口縮小と高齢化のスピードが際立って速そうだからである。

 第二次世界大戦においては「人口戦」という言葉が盛んに使われたが、超大国同士の対決は短期戦で決着するわけではない。両国を10年単位、20年単位の人口動態で分析するという視点が重要となる。タイミング良く、米中両国から国勢調査の最新結果が発表された。

 米中の将来人口推計を突き合わせると、今世紀中に人口規模で肩を並べる可能性があることが分かった。それほどに両国の差は縮まりそうなのである。中国は21世紀の前半と後半で、別の国かと思うほどに姿を変える。

 原因は一人っ子政策だ。世界一を誇る「人口」を武器として目覚ましい発展を遂げたが、そんな成功モデルを自ら手放しつつあるのだ。ここ数年のうちにGDPで中国が米国を追い抜くという試算も少なくないが、人口が減り、国が老いれば中国社会の勢いは長続きしないだろう。

 人口の動きを追えば未来は見えてくる。「世界カレンダー」という潜望鏡で、劇的な変貌を遂げる21世紀の地球を一足早く“覗き見”していただければと思う。