最重度の知的障害なので、笑うといってもほんの少し口角が上がるくらい。
「でも、彼女のなかでは笑って、カメラをちゃんと見てくれた。帰るときに『ありがとね』って言ったら、自らタッチしてくれた。心が通じ合う瞬間みたいな、楽しい思い出。苦労と楽しさは表裏一体。写真だけじゃなくて、ここでの体験を思い出として、持って帰ってほしいです」
そんな気持ちで葛谷さんが障害児だけでなく、親といっしょに撮影する「親子フォト」のプロジェクトを始めたのは4年前。
「障害児の親で、いますごくポジティブに生きている人が、産んだときは、『これで人生終わった』って、泣き続けた話を聞いたんです。そのとき、子どもの障害を受け入れて、親子で幸せに笑っているということは、すごく大切だなって、思った。それが親子フォトを撮り始めたきっかけです」
写真展会場には親子フォト、29組の作品が展示され、キャプションには「夢」「障害がわかったときの気持ち」「いまの気持ち」が書かれている。
「ほんとうは言いたくない、隠しておきたいことなのかもしれないのに、きちんと書いてくださった。前向きに取り組んでくれた」
■何日もへこんだ苦い思い出も
実は筆者の息子は、生まれてきたときにいくつもの障害があった。いまも小児難病の専門病院に通っていることもあり、障害児と接する機会は多い。初対面で障害児のすてきな笑顔を撮るのはなかなか難しく、葛谷さんの作品を見ると、(よくこれだけの笑顔が撮れたなあ)と思う。
「自閉症の子を撮るときはずっと飛び跳ねていたりするので、その子がどういう瞬間に落ち着くのか、ちょっとしたところに気づくことが大切ですね。例えば、壁に向かって跳ねている子を親が撮れる位置に連れてきても、またすーっと戻っちゃう。そのとき、その子はお母さんにハグしてもらいたいのかなと思ったんです。それで、『抱きしめてあげてください』と言って、お母さんが、ぎゅーってしたら、落ち着いて、写真が撮れた」
しかし、苦い思い出や葛藤もある。
「七五三で、知的障害と発達障害のお子さんだったんですが、着物を着る、という時点から嫌がっていた。脱ぎたいって、泣いているんですけれど、親が『もういいです』と言うまで私たちは諦めることはできない。一応撮れたんですけれど、その子は楽しくなかった。誰一人としてよかったな、と思えるような撮影ではなかった。そういうときは、ずーっと何日もへこみます」
親の願いをかなえてあげることも大切だけど、子どもの気持ちも大切にしてあげたい。
「自分も親なので、親の気持ちもすごくわかる。どんな状況であっても、納得できる写真を持って帰ってほしいです。いい思い出も」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】葛谷舞子写真展「life~笑顔のカケラ~」
富士フォトギャラリー銀座 9月17日~9月23日