写真に写る父親はいかつい表情でレンズをにらんでいる。
「でも、これは『撮ってもいいよ』みたいな、気分がいいとき。ふつうは撮れないんです。カメラを見たらすぐに、こういう拒否のポーズをしますから」
そう言って、王さんは私の目の前に手を突き出した。
■過去の時間に住む人々
窓際には食べ残された食事のおわんがいくつも並んでいる。
「お父さんはご飯を食べても、すぐに食べたことを忘れてしまい、またご飯をつくって食べようとする。でも、ひとくち食べて、おなかがすいていないことに気づく。同じことを1日に何度もやっていました」
母親からは「なんでいつも、そういうものを撮っているの?」と言われた。
事故のせいで過去の時間に住むようになった父親。
しかし、程度の差こそあれ、周囲の年配者はみなそうだと、王さんの目には映る。
「街がどんどん変化する一方、彼らの話し方や服装は、私が小学生のころから何も変わっていない感じがしました。外見だけでなく、彼らの心情はあまり変化していないというか、止まっている」
たくさんの家族が線香をささげ持つ写真は、母親とともに仏教の聖地として知られる五台山(山西省)を訪れたときのもの。
「毎年、お母さんは神様に1年のこととかをお祈りします」
やはり母親とともに老人ホームを訪れたときのしんみりした写真もある。
「ここで、お父さんは将来どうなるんだろう、みたいな話をしました」
■写真を仕事にしたくない
現在、王さんは東京藝術大学の大学院生。「ほかの人よりは年上ですけど」と小さく笑う。
来春は卒業だが、将来の展望を聞くと、「就職しますが、写真を仕事にしたくない」と言う。写真とは別な仕事で収入を得て、「自分の作品をつくりたいです」。
実は、この作品はまだ製作途中。この2年間は「コロナで全然、撮れなかった」。
今後は古い家族写真を組み入れ、作品を完成させていきたいそうだ。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】王露写真展「Frozen are the winds of time」
コミュニケーションギャラリー ふげん社 9月16日~10月3日