性的な目的で肛門にコップや人形などを挿入し、取れなくなって病院を受診する、というケースは比較的多い。直腸や肛門を傷つけて出血したり、穴が開いて重篤な腹膜炎になったりすることもある。手術が必要になるケースも少なくない。
肛門への異物挿入については、これまで多数の研究報告がある。患者は二十~九十歳代と広い年齢層に及び、男性は女性の一七~三七倍多い、とされている(1)。挿入された異物は家庭内で使用する日用品が多く、ボトルやグラスが約四二パーセントを占める(1)。その他、歯ブラシやナイフ、スポーツ用品、携帯電話、電球などの報告もある。
他にも、遊び半分でエアコンプレッサーの空気を同僚の肛門に吹きつけ、相手を死亡させるという事故が何度か報道されたこともある。いずれにしても非常に危険な行為である。また、肛門を使用した過剰な性交渉によって肛門や直腸に怪我をする事例も少なからずある。特に、直腸の表面はやわらかい粘膜でできているため、乱暴に扱うと裂けたり出血したりする。膣に比べると、肛門や直腸の壁はデリケートだ。
肛門や直腸をひどく損傷すると、治るまでしばらく使えなくなる。その場合は、手術で人工肛門をつくり、便の通り道を変更しなければならなくなってしまう。無事に治療ができても、術後に肛門の機能が完全に回復せず、後遺症が生じることもある。
肛門の機能が落ちると、日常生活に甚大な影響を与えるというのは、前述の通りである。もちろん、こうした事態が起こるのは肛門外傷だけではない。直腸がんや肛門がんなど、直腸や肛門の病気に対する手術後にも肛門の機能障害は起こりうる。病巣を切除するためには、肛門周囲の筋肉や神経を傷つけざるをえないことがあるからだ。また、交通事故やスポーツ中の事故などによる脊髄損傷も、こうした神経障害を引き起こすことがある。
【参考文献】
(1)Clin Colon Rectal Surg. 2012 Dec; 25(4): 214-218.
山本健人(やまもと・たけひと)
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)。
外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は開設3年で1000万ページビューを超える。Yahoo!ニュース個人、時事メディカルなどのウェブメディアで定期連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー8万人超。著書に『医者が教える正しい病院のかかり方』『がんと癌は違います~知っているようで知らない医学の言葉55』(以上、幻冬舎)、『医者と病院をうまく使い倒す34の心得』(KADOKAWA)、『もったいない患者対応』(じほう)ほか多数。
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