東京パラリンピックは9月4日、テコンドーの女子58キロ超級(K44)があり、2014年ソチ、冬季大会のメダリスト・太田渉子(32)が出場する。AERA2019年12月2日号のインタビューを紹介する。
* * *
黒帯を締めた瞬間、それまでの柔らかな印象が一変した。パラテコンドーで女子唯一の強化指定選手・太田渉子は、半身になって構えると、射るようなまなざしでハイスピードな蹴り技を繰り出した。
得意技はカットと呼ばれる前蹴りだ。パラリンピックの銀と銅メダルを獲得したスキーで鍛えた足腰から繰り出す強い蹴りを武器に、2018年に本格的に競技を始めてすぐに頭角を現した。19年の世界選手権では世界ランキング1位の選手を破って3位になった。
とはいえ、パラテコンドーはスキーとは全く別の競技だ。太田も最初は膝を高く上げて蹴るという基本動作ができずに苦労したという。なぜ未知の競技を?
「新採用の競技で選手もいなかったので、自国開催のパラリンピックを日本選手として盛り上げたいと思ったことと、小さい頃から、すぐにできることより難しいことに挑戦するのが好きだったので」
例えば保育園の頃。コマ回し大会があったが、左手の指が全てない太田には、コマの裏側にひもをきつく巻く作業ができない。自宅に帰り、悔し涙を流しながら母と一緒に繰り返し練習し、本番では1位に。先生が作ったメダルを手にした。
現在取り組むのが後ろ回し蹴りだ。「三半規管が弱いのか、すぐに酔っちゃう」という太田は、日常の中でも回転動作を採り入れ、感覚を鍛えているという。
「いま以上に技を習得し、コートの中で自由自在に動きたい。できるようになった自分を想像すると楽しいんです」
(編集部・深澤友紀)
*
■パラテコンドー
足技を中心とした格闘技。頭部への攻撃禁止などを除くと、ルールは一般のテコンドーとほぼ同じで、八角形のコートで、2分3ラウンドを戦う。初採用となる東京パラリンピックでの種目は上肢障害の選手によるキョルギ(組手)。有効な蹴りは1回2点で、180度の回転が加わった後ろ蹴りは3点、360度の回転蹴りは4点となる。
※AERA2019年12月2日号に掲載