東京パラリンピックは9月3日、水泳の男子100メートルバタフライ(S11)があり、木村敬一(30)が出場する。AERA2020年11月20日号で力強く語ったインタビューを紹介する(肩書、年齢は当時)。
* * *
もっと速く泳げるはず。飽くなき向上心は満たされない思いとも隣り合わせだ。
「記録では自分より速い人がいる。自分の限界値がわからなくて。目が見えないけど両手両足が自由に動くわけですから」
視力に頼らずにまっすぐ泳ぐのは難しく、木村敬一はコースロープに手をぶつけながら泳ぎ、失速しがちだ。速く泳ぐために必要な、水に確実に力を当てる動きや抵抗を減らす泳ぎも言語化しにくい運動のため、2歳で失明して泳ぎを見たことがない木村には「動きを習得しにくい」。
コースロープにぶつかっても勢いが衰えない力強い泳ぎを目指し、筋トレと1日5食の食事で肉体改造。4年前のリオ・パラリンピックでは日本選手最多の四つのメダルを獲得した。
その後、「これまでと同じ練習では東京で金メダルは取れない」と、リオ大会で3冠に輝いたライバル選手にSNSで連絡を取り、2018年春、米国に練習拠点を移して彼のコーチに師事。言葉も通じず、住環境も食事も一変したが、困難な環境で神経を研ぎ澄ませる中で、自分の頑張りを初めて肯定できるようになり、「レースでも自信を持ってスタート台に立てるようになった」。その効果は大きく、渡米後の2年間に5種目で自己ベストを更新。19年の世界選手権でも金を手にした。
「東京大会では、光のない世界で生きてきた人間でもこれだけの泳ぎができるという人類の可能性を示せたらいい。表彰台に上がっても国旗は見えないから、金メダルを取って君が代を聞きたい」
(編集部・深澤友紀)
*
■パラ水泳
残された体の機能を最大限に生かし、いかに速く泳ぐかを競う。オリンピックと同じ泳法(自由形、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ)で行われ、ルールも同じだが、障害の程度に応じて特別なスタート方法やゴールタッチが認められている。「身体障害」「視覚障害」「知的障害」のクラスに大別され、視覚障害クラスはプール底のラインが見えないため、まっすぐ泳ぐことが最大の課題となる。
※AERA2020年11月20日号に掲載