さとう・ともき/1989年、静岡県藤枝市生まれ。グロップサンセリテワールドアスリートクラブ所属。21歳で脊髄炎を発症し車いす生活に。パラリンピックロンドン大会が契機となり、2012年に競技開始。4年後のリオデジャネイロ大会で400、1500メートルともに銀メダル獲得。翌年の世界パラ陸上は400、1500メートルで2冠達成。昨年1月の国際大会でも800、5000メートルで世界記録を更新した(写真/門間新弥)
さとう・ともき/1989年、静岡県藤枝市生まれ。グロップサンセリテワールドアスリートクラブ所属。21歳で脊髄炎を発症し車いす生活に。パラリンピックロンドン大会が契機となり、2012年に競技開始。4年後のリオデジャネイロ大会で400、1500メートルともに銀メダル獲得。翌年の世界パラ陸上は400、1500メートルで2冠達成。昨年1月の国際大会でも800、5000メートルで世界記録を更新した(写真/門間新弥)
この記事の写真をすべて見る

 東京パラリンピックは8月27日、陸上が始まり、男子400メートル(T52)に世界記録保持者の佐藤友祈(31)が出場する。AERA2020年2月24日号で力強く語ったインタビューを紹介する(肩書や年齢は当時)。

【写真特集】AERA連載「2020 Paralympics TOKYO」から選手たちの写真はこちら!

*  *  *

 最高時速が40キロ近くにまで達するトラック種目。佐藤友祈は風を突き破るように、前かがみで車いすを滑らせる。その姿は一本の矢のようだ。400、800、1500、5000メートルと、中長距離すべての世界記録を持つ。

 圧倒的な強さの源泉は、「ゾーン」に入れる集中力だという。

「緊張して震えることはあるが、スタートした瞬間から周りの音が遮断される。必要な情報だけがわかる感じでしょうか」

 相手がここにいて、自分はここ。だから、こう走る。

「自分を俯瞰で見ているというか、レースを真上から見ているみたいな感覚ですね。最初からできたかどうかは覚えていないけれど、自分の限界を超えてきたときにその状態に入りやすい気がする」と丁寧に言葉を紡ぐ。

 限界を超えてくる状況とは、自己新記録が出せなかったとしても「その時のベストではあるんです」。そんな100%の積み重ねと空間認知力が、この圧倒的な王者をつくりあげた。

 小さい時から、時間を忘れて集中するところがあった。趣味である囲碁もそうだ。盤を上から見下ろし陣地を争う時間のなかでも力を養ったのかもしれない。

「レーサー」と呼ばれる競技用の車いすを、一昨年新しいものに替えた。

「同じように作ったレーサーでも、乗り方によって変わってくる。レーサーと一体化していかないと」と距離を積む。

「世界記録を樹立しての金メダル獲得を、全種目で達成したい」と目を輝かせた。

(ライター・島沢優子)

*  *  *


■車いす陸上

 障害が軽い選手は正座の姿勢で体勢を低くし、空気抵抗を減らしスピードを上げる。腹筋が機能しない選手は自力で上半身を起こすことができないため、重心を後ろにした着座姿勢で乗る。直径70センチ以内の後輪からなるレーサーという競技用車いすを用いる。8~10キロ程度で、フレームはアルミニウムやチタン製。

※AERA2020年2月24日号に掲載