生存者らと接し、カウラ事件の体験に関する番組制作などに取り組んだ山陽女子高校(現・山陽学園高校)の生徒・卒業生たち(c)瀬戸内海放送
生存者らと接し、カウラ事件の体験に関する番組制作などに取り組んだ山陽女子高校(現・山陽学園高校)の生徒・卒業生たち(c)瀬戸内海放送

 ノンフィクション作家の保阪正康さんは8月中旬、BS―TBSの報道番組「報道1930」に出演し、戦争体験について、一次的継承(自らの体験を語る)、二次的継承(体験を聞き取り語り継ぐ)を経て、今や三次的継承(体験を自分と切り離し、歴史化する)の時代に入った、と主張した。体験者の多くが亡くなる中、老若を問わず聞き取る人にも、新たに戦争体験の継承に取り組む若者たちにも、その「歴史化」は課題だ。「カウラは忘れない」は一・二次的継承の足跡であり、かつ三次的継承に向けての模索にも見えてくる。

■キー局ではなくローカルの強み

 ローカル局によるドキュメンタリー映画は、東海テレビ放送が2011年に手掛けた意欲作「平成ジレンマ」が先駆けとされる。社会問題になった体罰事件を起こした「戸塚ヨットスクール」を扱い、カナダのモントリオール世界映画祭の招待作にもなった。山口放送、広島テレビ、テレビ長崎なども続いた。富山のチューリップテレビは、自らの調査報道で火をつけた富山市議会の不正問題をドキュメンタリー映画にした。なぜ、キー局ではなく、ローカル局なのか。

カウラの収容所跡地。高校生たちは、立花さんが寂しさを紛らわせようと話しかけていたユーカリの大木を目指して歩く(c)瀬戸内海放送(c)瀬戸内海放送
カウラの収容所跡地。高校生たちは、立花さんが寂しさを紛らわせようと話しかけていたユーカリの大木を目指して歩く(c)瀬戸内海放送(c)瀬戸内海放送

「映像は宝の山」(山里さん)というように、一つは定点観測的に撮りためた映像が残っている点。もう一つは、一からの映画制作ではなく、テレビ用に撮影して一部を放送し、豊富な映像を加えて再編集して映画化することが多く、予算を比較的抑制できる点だろう。さらには、テレビの枠では、長時間のドキュメンタリーを放送しにくい実情もあり、テレビから映画へと発展的に発表媒体を変えているようだ。

 満田さんによれば、ドキュメンタリー映画も作りたいからローカル局に入りたい、と希望する大学生も出てきたという。山里さんも言う。「やる気と企画力があれば、あらゆるものに挑戦できるのが、ローカル局だと思います」

「カウラは忘れない」を監督した満田康弘さん(c)瀬戸内海放送
「カウラは忘れない」を監督した満田康弘さん(c)瀬戸内海放送

 大都会の渦から一歩引いたところで、対象をじっくり見つめる。大きな声にかき消されそうな小さな声も聞こえてくる。真の像とは、その姿勢から見えてくるのかもしれない。ローカル局発のドキュメンタリー映画が、あたふたと周囲の出来事に振り回され、立ち止まることも許されずに流されていく人々に大切なことを示してくれる。その可能性は、底知れない。

 山里さんは「埋もれてしまった出来事や人物にスポットライトを当てることで、歴史を問い直すことが、ドキュメンタリーにはできる」と確信する。満田さんも話す。「カウラ事件でも、新型コロナウイルス感染症でも、明らかになったのが、日本人の同調圧力ではないか。声を上げられない人の助けになって、寛容な世の中になってほしいという意気込みで、ドキュメンタリーを作っていきたい」

(米原範彦)

AERAオンライン限定記事