路面電車の建設では、アラブ系住民だけでなくユダヤ系正統派の住民も反対した(ニシム・オトマズキン提供)
路面電車の建設では、アラブ系住民だけでなくユダヤ系正統派の住民も反対した(ニシム・オトマズキン提供)

 路面電車はまた、パレスチナ人の居住地を通過する予定で、彼らからも同じように歓迎されませんでした。当初、パレスチナの住民は、列車はイスラエルが街を占領するためのツールだと見ており、反対していました。最初の数週間は列車に向かっての投石などもありました。しかし、徐々に、多くのパレスチナ人も路面電車の利点を知り、仕事やレジャーのために町の他の場所を訪問するようになりました。列車のアナウンスや表示はアラビア語・ヘブライ語・英語と3カ国語です。今ではエルサレムのショッピングモールは、ユダヤ人とアラブ人の買い物客が隣り合って混雑しており、このように新しいユダヤ人とアラブ人の共有公共スペースが生まれました。エルサレム市にはこの路面電車の成功に続いて、より多くのラインが現在市内に建設されています。

 イスラエルの列車利用は、日本の状況よりはるかに遅れています。私の教え子で現在、京都大学大学院博士課程に在籍するシル・シャピラさんは、国づくりの一環として日本の列車システムの開発について研究しています。彼女によると、日本の鉄道システム開発は、19世紀の日本の近代化キャンペーンの一環として始まりました。現在の重要性はアジア諸国へ高速列車技術を輸出するまで発展していることです。また彼女の意見では、日本の鉄道システムはただのインフラ投資として他国に影響を与えるだけではなく、相互の文化や政治への影響の一部をも構成していると強調しています。エルサレムの路面電車は東京の列車文化からはまだ遠いですが、最初の一歩を踏み出しています。

〇Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズキン)/国立ヘブライ大学教授、同大東アジア学科学科長。トルーマン研究所所長。1996年、東洋言語学院(東京都)にて言語文化学を学ぶ。2000年エルサレム・ヘブライ大にて政治学および東アジア地域学を修了。2007年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科修了、博士号を取得。同年10月、アジア地域の社会文化に関する優秀な論文に送られる第6回井植記念「アジア太平洋研究賞」を受賞。12年エルサレム・ヘブライ大学学長賞を受賞。研究分野は「日本政治と外交関係」「アジアにおける日本の文化外交」など。京都をこよなく愛している。

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