店長で6代目カメラマンでもある武田仁さん。「写真は好きだけど生業にするつもりはなかった」というが、5代目の故・中村孝氏の教えを守って撮影を続けている(写真/篠塚ようこ)
店長で6代目カメラマンでもある武田仁さん。「写真は好きだけど生業にするつもりはなかった」というが、5代目の故・中村孝氏の教えを守って撮影を続けている(写真/篠塚ようこ)

 ほか、女性なら松田聖子さん、中森明菜さん、山口百恵さん、男性なら沢田研二さん、チェッカーズなどが、購入者の世代を問わず、根強い人気がある。

 平成に入り、マルベル堂は15年ほど、プロマイドの撮影から離れている。誰でも簡単に写真が撮れるようになったためだ。

「採算が合わなくなったんだろうと思いますね。芸能事務所が自分たちでカメラマンを抱えるようになり、マルベル堂に頼まなくてもよくなったんでしょう」

 だが、仕事で知り合ったDDTプロレスの関係者の「またプロマイド撮ればいいのに。紹介するよ」という言葉に力を得て、撮影再開を決めた。そのときすでに、マルベル堂の5代目カメラマンは退職していたが、呼び戻し、武田さんはその撮影アシスタントをしながら撮り方を目で見て学んだという。

マルベル堂の店内。松田聖子さん、中森明菜さん、山口百恵さん、西城秀樹さん、沢田研二さん、チェッカーズといった1970~80年代のプロマイドが人気の中心だが、20~60年代の映画スターのものも多数揃う(写真/篠塚ようこ)
マルベル堂の店内。松田聖子さん、中森明菜さん、山口百恵さん、西城秀樹さん、沢田研二さん、チェッカーズといった1970~80年代のプロマイドが人気の中心だが、20~60年代の映画スターのものも多数揃う(写真/篠塚ようこ)

マルベル堂のプロマイド
撮影ルールには理由がある

「マルベル堂のプロマイドにはルールがある。カメラマンが変わってもテイストが変わらない、いわばレシピ。変わってしまうと100年続かない」と武田さん。基本は、バストアップのカメラ目線だ。「なぜバストアップなのか。ファンはスターの顔を大きく見たいから。カメラ目線は、ファンはスターと目を合わせたいから」。ただカメラを見てもらったわけではない。

「師匠はいつもスターに『レンズの向こうにはファンがいるから』と言っていた。プロマイドはファンのためのものなんです」

 スターとファンを身近にするのがプロマイド。雑誌の写真とは違う、と武田さんは続ける。40年代には、ライティングで表情に陰影をつけたらかっこいいんじゃないかと考えたカメラマンがいたという。だが、両方同時に発売したところ、陰影をつけたものは売れなかった。

「プロマイドはその写真1枚を見て買う。雑誌は、影があってもいいし、ポーズが気取っていてもいい。でも写真1枚買うとなると、違うんですよ。だから、できあがりだけを見ると、誰にでも撮れそうな、当たり前の写真になる。でも、そこにはちゃんと理由があるんです。プロマイドには手が写っているものもたくさんありますが、それは、ファンが指先、爪の先まで見たいから。指長いなとか、よく親指反るなとかね(笑)。手はポーズを取るためでもあるけれど、それ以上に、ファンが求めているものを写した結果なんです」

(編集部・伏見美雪)

※AERA 2021年8月16日-8月23日合併号より抜粋

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